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(写真:「優勝を目的にしてきた大会」と、今年は特にタイトルに対する想いは強かった西本)

 4日、第70回全日本総合バドミントン選手権最終日が東京・代々木第二体育館で行われた。男子シングルス決勝は西本拳太(中央大学)が坂井一将(日本ユニシス)をファイナルゲームの末に下し、初優勝を果たした。同大会同種目で大学生の優勝は当時日本体育大学の舛田圭太以来。女子ダブルス決勝はBWF世界ランキング1位の高橋礼華&松友美佐紀組(日本ユニシス)が米元千春&田中志穂組(北都銀行)を2-1で破り、同種目2年連続5度目の優勝を飾った。

 

 女子シングルスは佐藤冴香(ヨネックス)が山口茜(再春館製薬所)にストレート勝ちし、初制覇を成し遂げた。男子ダブルスは昨年優勝の園田啓悟&嘉村健士組(トナミ運輸)が連覇を達成。嘉村は米元と組んだ混合ダブルスも制し、ダブルス2冠を手にした。

 

 我慢強さ発揮し、初の日本一

 

「今まで歴代の先輩方が手にしてきたトロフィーはこんなに重いんだと。誰にも渡したくないという思いは強いです」

 初めて日本一の称号を得た西本は、喜びを嚙み締めた。

 

 決勝進出も初。全日本総合の決勝は魔物が棲んでいるとばかりに舛田、桃田賢斗(NTT東日本)ら歴代のチャンピオンたちは初めての決勝で涙をのんできた。決勝は1コートのみ。静寂に包まれた会場で観客の視線は1点に注がれる。その中で醸し出される空気は経験した者にしかわからない独特のものだ。

 

 その例に漏れず「序盤は会場の雰囲気にのまれてしまった」と西本。坂井の長身から繰り出す強打に押され、16-21で第1ゲームを落とした。第2ゲームでも15-18と劣勢に追い込まれていた。

 

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(写真:持ち味の粘り強さ、我慢強さはバドミントンを始めた頃からあったという)

「1ゲーム目の取られ方が良くなかった。第2ゲームもずるずるいって、タオルを取って気持ちを整理した」

 西本は“相手の強打を拾おう”と持ち味の粘りのバドミントンに徹する。

 

 初優勝が懸かった場面で硬くなっていたのは、西本だけではなかった。

「相手も優勝を意識していた分、内側に入ってきて取れるようになってきた」と西本は振り返る。

 

 粘りのバドミントンで、拾って拾って、拾いまくった。22-20と逆転し、第2ゲームをモノにした。「相手は2ゲーム目勝っている場面から逆転。弱気になっているはずでした。無理やりでも強引に攻めていこうと思った」。西本は守から攻へと転じた。

 

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(写真: 「大学界を盛り上げる。大学生でもできるんだぞと結果で見せられてよかった」と喜んだ)

 ファイナルゲームは相手を圧倒し、主導権を全く握らせなかった。21-8で初の日本一を掴み取った。「これからは日本、世界とどんな大会であろうと、日本で一番というプライドを持ってやっていきたい」と意気込む。

 

 4月には違法カジノ店に出入りしたことを申告し、ナショナルチームのA代表から外れ、1カ月活動停止処分を受けた。「ケガとはまた違う理由。できる身体なのにできない状況にしてしまった自分自身の問題。一回りして人として成長するための期間だった」

 そこでバトミントンができる喜びを思い知った。

 

「優勝したい気持ちは誰よりも強かった」と豪語する22歳の若武者が、日本男子シングルスの新時代をリードする。

 

 真の強さを追い求めて

 

 オリンピックで頂点に立ち、世界ランキング1位にも輝く“タカマツ”ペア。次なるターゲットは2年ぶりのスーパーシリーズファイナルズ制覇と、翌年に控える世界選手権初優勝だ。

 

 2年連続5度目の優勝が懸かった全日本総合も、彼女たちにしてみれば通過点に過ぎない。決勝は第1ゲームを16-21で落とし、第2ゲームでも米元&田中に苦戦した。それでも高橋が「焦りもなく勝ち切る力があると信じていた」と口にしたように、21-19で接戦をモノにする。第3ゲームは相手を圧倒し、21-14で取った。2-1の逆転勝ちで、連覇を決めた。

 

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(写真:スーパーシリーズファイナルズに向けた課題に取り組んできた今大会の高橋<右>と松友)

 準々決勝から3試合続けてファイナルゲームまでもつれたのは、まだ“タカマツ”ペアは完成型ではないからだ。今大会は内容重視とし、これまでにない戦型やショットを試している。それが第3ゲームではうまくハマったという。「いつもは縦の型なのが、横の型でも連続攻撃を仕掛けられた」と高橋。松友は「毎日いろいろ話して試している。それが3ゲーム目でいいかたちで表れたのかと思う」と振り返った。

 

 接戦を勝ち切ることができるのは、これまで修羅場の経験が生きた。高橋はファイナルゲームにもつれた時の心境をこう語った。「課題に取り組んで入って、何回も“負けてもいいや”ではないが、開き直って“負けたら負けたでしょうがない”と思いました。でも、どこかで“強い人はここでは負けない”というのが頭にあった」

 

 勝ち方を知っているとも言えるだろう。「自分たちが(世界のトップ)を見ていてもそうですし、中国ペアとやっても感じたのは、強い人は最後まで考えをもってやっている。最後の最後まで気も抜かないし、勝ち方を知っている」と高橋。“タカマツ”ペアはその域に近付きつつあるのは間違いない。

 

 試行錯誤を経ながら、全日本総合では優勝杯を手にした。彼女たちの照準はあくまで世界。再来週のスーパーシリーズファイナルズ(UAE)で2014年以来の戴冠を目指す。

 

(文・写真/杉浦泰介)