4日、東京パラリンピックのバドミントン競技が東京・国立代々木競技場第一体育館で行われた。女子シングルス(車いすWH1)決勝は里見紗李奈(NTT都市開発)がスジラット・プッカム(タイ)に2-1で逆転勝ち。今大会の日本バドミントン金メダル第1号となった。里見は山崎悠麻(NTT都市開発)と組む女子ダブルス(車いすWH)でも決勝に残っており、5日に2冠をかけて戦う。山崎はこの日、女子シングルス(車いすWH2)の3位決定戦に勝ち、銅メダルを獲得した。

 

 女子シングルス(上肢障がいSU5)決勝は鈴木亜弥子(七十七銀行)がヤン・キウシャ(中国)にストレートで敗れ、銀メダル。同3位決定戦は杉野明子(ヤフー)が亀山楓(高速)との日本人対決を制した。鈴木は伊藤則子(中日新聞)とのペアで獲得した女子ダブルス(下肢障がいSL3-上肢障がいSU5)と合わせ、大会2個目のメダルとなった。男子シングルス(下肢障がいSL3)の藤原大輔(ダイハツ工業)と、男子シングルス(車いすWH1)の村山浩(SMBCグリーンサービス)は3位決定戦で敗れ、4位だった。

 

 パラリンピック新競技のバドミントン。この日は7種目でメダリストが誕生した。日本は色の決まったものだけで4種目のべ5人。更なるメダルラッシュへ、翌5日の決勝・3位決定戦には4種目に出場する。各種目に世界ランキング上位選手・ペアを揃え、高かった期待に応えた。

 

 まずは車いすWH1世界ランキング1位の里見が劇的勝利で勢いをつけた。同2位のプッカムとの決勝戦。35歳の元世界女王とは、シングルスで6度対戦しており、2勝4敗と負け越している。この日の決勝を前にダブルス準決勝で対戦。里見と山崎のペアはストレートで勝利したものの、21-17、21-16と内容は競ったものだった。

 

 シングルス第1ゲームを14-21で落とす厳しい立ち上がりとなった。「あまり試合中、声を出さない印象だった」というプッカムが気迫を見せてきた。第2ゲームは序盤リードしながら、9連続失点で15-18と追い込まれた。それでも5連続得点でひっくり返し、21-19で最終ゲームまで持ち込んだ。

 

「コーチからは『実力は一緒。勝ちたい気持ちが強い方が勝つんだよ』と言われました」

 プッカムに負けじと、里見も積極的に声を出し、気迫を全面に押し出した。最終ゲーム序盤は競ったものの、中盤以降は里見のペースとなった。プッカムがシャトルを返し切れない場面が目立った。最後はプッカムの返球がネットに阻まれ、21-13。ゲームカウント2-1で里見が逆転勝ちを収めた。

 

 2019年の世界選手権を制し、世界ランキング1位で臨んだ今大会。優勝候補の大本命だった。「プレッシャーはないと言いつつも、世界ランキング1位で『金メダルに最も近い』と言われたりもした。“(金メダルを)獲らなきゃいけない”と思っていました」。自国開催のパラリンピックは、重圧にもなっていた。

 

「ずっとこの舞台で金メダルを獲ることを目標にしてきました。それができた自分を褒めたい」と里見。24歳の初代女王は5日、パラリンピック2冠に挑む。山崎とのペアは世界ランキング1位。「シングルスは心細い。ダブルスは悠麻さんが隣にいてくれる。2人で金メダルを獲りたい」と意気込んだ。山崎は里見の決勝を応援した後、3位決定戦でエミネ・セチキン(トルコ)をストレートで破った。「次の決勝で最後。これまでやってきたことを楽しんで戦いたい」と語った。

 

 女子シングルス(上肢障がいSU5)世界ランキング1位の鈴木は、準決勝で同4位・亀山との日本人対決を制し、「最低ライン」と位置付けていた決勝戦にコマを進めた。決勝で対戦した世界ランキング2位のヤンとは1年半ぶりの対戦。通算成績でも2勝6敗と負け越している相手だが、鈴木は「楽しみ」にしていたという。

 

 1年半久々にコートでヤンと対峙した感覚は「強くなっていた。スマッシュが良くなり、体幹がすごくブレなかった」とパワーで押し込まれた。鈴木の返球が甘くなったところで、クロスをことごとく決められた。17-21、9-21のストレートで完敗。進化した23歳のヤンに屈した。

 

 それでも女子ダブルス(上肢障がいSL3-SU5)では「あと1試合を全力でやるのが仕事」と気持ちを切り替えた。伊藤との連携も良かった。レナイグ・モラン&フォスティーヌ・ノエルのフランスペアにストレートで勝ち、銅メダルを獲得した。一度は現役を引退した鈴木は16年、コートに戻ってきた。東京パラリンピック出場を目指すためだ。

 

「これまでの5年間がメダルというかたちになって良かった」と振り返る鈴木は、今大会限りでの引退を表明した。1日で4試合というタフな日程を乗り切り、まだ第一線で戦える実力を感じさせる。それでも本人の表情は晴れやかだった。

 

(文/杉浦泰介)

 

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挑戦者たち(2016年9月掲載)