(写真:トップランク社は、今年に大きく知名度を上げたロマチェンコ<中央>を来年中にパッキャオと対戦させるプランを描いている Photo By Vassili Ossipov)

(写真:トップランク社は、今年に大きく知名度を上げたロマチェンコ<中央>を来年中にパッキャオと対戦させるプランを描いている Photo By Vassili Ossipov)

 2016年も大詰めに近づき、アメリカ国内では今年度の主要ファイトはすでにほぼすべて終わった。今年はビッグファイトの少なさでファンを落胆させたが、そんな中にも輝きを放ったボクサーは少なからず存在する。そこで今回は今年のリングを振り返りつつ、年間最高選手を独自に選出してみたい。

 

ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ/WBO世界スーパーフェザー級王者)

2016年 2戦2勝(2KO)

ローマン・マルチネス(プエルトリコ) 5RKO

ニコラス・ウォータース(ジャマイカ) 7RTKO

 

 2016年のMVPに選ぶべきかはともかく、今年1年の米リングで最も株、評価を上げたのがロマチェンコであることは間違いあるまい。

 

 6月11日、ニューヨークでマルチネスを完全KOし、世界最速で2階級制覇を達成。タフなベテラン王者を吹き飛ばした左アッパー、右フックのコンビネーションは戦慄的で、年間最高KOの候補にもなるだろう。

 

 続いて、11月26日にはラスベガスで強豪ウォータースをストップ。この日まで27戦全勝だったジャマイカ人を諦めさせた技巧は出色で、“ロマチェンコこそがすでに現役最高のボクサーではないか”という声も出始めている。

 

 アメリカ国内で人気選手になったとはまだ言えないが、今年中に2大マーケット(ニューヨーク、ラスベガス)で優れたパフォーマンスを見せたことの意味は大きい。プロキャリアわずか8戦で覚醒したスーパーボクサー。2017年中にさらに大きな舞台に立つ可能性は十分にある。

 

(写真:フランプトンはアメリカではほぼ無名だったが、7月にサンタクルスを下したファイトは高く評価された Photo By Amanda Westcott/SHOWTIME )

(写真:フランプトンはアメリカではほぼ無名だったが、7月にサンタクルスを下したファイトは高く評価された Photo By Amanda Westcott/SHOWTIME )

カール・フランプトン(イギリス/WBA世界フェザー級王者)

2016年 2戦2勝

スコット・クイッグ(イギリス) 判定

レオ・サンタクルス(アメリカ) 判定

 

 レジュメだけを見れば、“ジャッカル”と呼ばれる2階級制覇王者が今年度のNo.1だろう。2月にはクイッグとの英国対決を制してWBA、IBF世界スーパーバンタム級王座を統一。7月には評価の高かったサンタクルスにも勝って、北アイルランド人としては初の2階級制覇を達成した。サンタクルス戦は年間最高試合候補になるほどの好試合になり、そこで堂々と打ち勝ったことでも印象深い。 

 

 KO勝利がないのが数少ないマイナス材料だが、それでもアメリカ国内でもついにその力が認められ、多くの媒体が今年度MVPに選出するだろう。

 

 来年1月、サンタクルスとのリマッチはラスベガスのMGMグランドガーデン・アリーナ開催が決まった。これだけの大舞台が予想されたことが、フランプトンの存在感の高まりを物語っている。

 

(写真」通称”ロマゴン”の9月の一戦はメガケーブル局HBOがメインイベントで生中継した Photo by Chris Farina/K2 Promotions)

(写真:通称”ロマゴン”の9月の一戦はメガケーブル局HBOがメインイベントで生中継した Photo by Chris Farina/K2 Promotions)

ローマン・ゴンサレス(ニカラグア/WBC世界スーパーフライ級王者)

2016年 2戦2勝

マクウィリアムス・アローヨ(プエルトリコ) 判定 

カルロス・クアドラス(メキシコ) 判定

 

 アメリカでもパウンド・フォー・パウンド最強と認められるようになった小さな英雄は、今年も充実の1年を過ごした。4月にコンテンダーのアローヨを明白に下し、9月にはクアドラスとのハイレベルの攻防戦に勝利。ニカラグア人史上初の4階級制覇を達成し、偉大なキャリアに新たな勲章が加わった。

 

 ただ、今年の2戦はどちらもKOできず、昨年まで続けていた10連続KOはストップ。スーパーフライ級に上げたクアドラス戦では圧倒的な強さは感じられず、増量による限界、ピークを過ぎたことを指摘する声も出てきている。長年の功労者的な意味での評価を加えても、今年のMVPには少し物足りないというのが正直なところか。

 

(写真:実力は申し分ないクロフォード<右から2番目>だが、地味なキャラクターゆえに人気はもうひとつ)

(写真:実力は申し分ないクロフォード<右から2番目>だが、地味なキャラクターゆえに人気はもうひとつ)

テレンス・クロフォード(アメリカ/WBC、WBO世界スーパーライト級王者)

2016年 3戦3勝(2KO)

ハンク・ランディ(アメリカ) 5RTKO

ビクトル・ポストル(ウクライナ) 判定

ジョン・モリーナ・ジュニア(アメリカ) 8RTKO

 

 やや地味ながら、実力派のWBC王者ポストルから2度のダウンを奪って快勝した星は今年屈指のビッグウィンだった。また、ランディ、モリーナ戦では鮮烈なKO劇を演出。基本的には慎重さが目につく選手だが、フィニッシャーとしても優秀なことは評価されてしかるべきだ。

 

 マイナス材料は、ポストル以外の2人の対戦者はハイレベルと言えなかったことと、興行価値は依然としてスーパースター級と言えないこと。ただ、1つのビッグファイトを含む3度のタイトル戦をこなした数少ないトップ王者でもあるだけに、今年の年間MVPに選ばれても不思議はない。

 

(写真:パッキャオの今年の2戦の内容は悪くないが、もう過去ほどのインパクトはない Photo By Mikey WIlliams / TopRank)

(写真:パッキャオの今年の2戦の内容は悪くないが、もう過去ほどのインパクトはない Photo By Mikey WIlliams / TopRank)

マニー・パッキャオ(フィリピン/WBO世界ウェルター級王者)

2016年 2戦2勝

ティモシー・ブラッドリー(アメリカ) 判定

ジェシー・バルガス(アメリカ) 判定

 

 4月にはブラッドリーとの3度目の対戦に完勝、その後に引退表明、5月にはフィリピン上院議員に当選、7月にはカムバックを決断、11月には復帰戦でバルガスを下して王座返り咲き。将来の殿堂入り確実のスーパースターは、リング内外で目まぐるしい1年を過ごした。

 

 昨年5月のフロイド・メイウェザー(アメリカ)戦以降は話題性も激減したが、今年の2試合の対戦相手の質は低くなかった。ブラッドリーにあれだけ明白に勝てる選手は現代にもそれほど多くはない。

 

 その戦いぶりに全盛期の迫力はなく、おかげで真剣に年間MVP候補として考える関係者は少ないかもしれない。それでも今年37歳になる英雄が、依然として有数の実力者であることを示した1年ではあった。

 

(写真:コバレフ戦時で判定勝利がコールされた際、ウォード本人もリング上で驚いたように見えた Photo By Tom Hogan - Hoganphotos/Roc Nation Sports )

(写真:コバレフ戦時で判定勝利がコールされた際、ウォード本人もリング上で驚いたように見えた Photo By Tom Hogan - Hoganphotos/Roc Nation Sports )

アンドレ・ウォード(アメリカ/WBA、IBF、WBO世界ライトヘビー級スーパー王者)

2016年 3戦3勝

サリバン・バレラ(キューバ) 判定

アレクサンデル・ブランド(コロンビア) 判定

セルゲイ・コバレフ(ロシア) 判定

 

 11月19日、“2016年で最も重要な一戦”と呼ばれたコバレフ戦で判定勝利を飾った。ヘビー級の絶対王者として君臨したウラディミール・クリチコ(ウクライナ)を下した昨年のタイソン・フューリー(イギリス)同様、1勝の価値だけで、本来は年間最高選手候補になってしかるべきだろう。

 

 ただ問題は、アメリカでも6~7割の関係者がコバレフ戦でのウォードは負けていたと見たこと。この試合の判定は“不当”とまでは言われていないが、明白な勝利では到底なかった。だとすれば、たとえ現役ベスト5に入る強豪に勝ったとしても、ウォードを今年のMVPには選び難い。ライトヘビー級でのウォードの真価も、来年に実現が期待されるコバレフとの再戦で改めて測られることになるはずだ。

 

 筆者選出の2016年MVP フランプトン

 

 試合内容の見事さ、能力の高さを考えれば、ロマチェンコを選出したくなる。しかし、フランプトンが今年に行った2試合の内容の濃さは無視できない。この2戦で、統一戦、同国ライバル対決、複数階級制覇、アウェー戦といった現代のボクシング界で重要視される多くの要素をクリア。母国での商品価値の高さに甘んじなかったことも好感が持てる。アメリカでの新たなチャレンジを成功させたことも評価し、ここではフランプトンを年間最高ファイターに選びたい。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。

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