2016年の『Tokyo outside Festival』「挑戦するところを見てもらうのは、あの場所しかない」

 あの場所とは新宿中央公園だ。こちらでアウトドア関連のイベント『Tokyo outside Festival』が行なわれて今年で5年目を迎える(毎年、3月下旬に2日間開催)。

 

 僕は、このイベントのスタート時からミヤマ☆仮面として、ステージイベントに携わらせてもらっている。一昨年は、抗がん剤治療の真っ只中であったため、参加できなかったのだが、この時は桜庭和志選手や高山善廣選手など格闘家やレスラーが集結し、僕の分も盛り上げてくれた。ここから応援の輪が全国に広がっていったことを今でも感謝している。

 

 昨年は、ミヤマ☆仮面としての活動再開を高らかに宣言するため、仲間と共にステージに立った(写真)。新宿中央公園は、僕にとって発信拠点の役割も果たしているのである。

 

 さて今年は、少しばかりエスカレートし、大胆な行動に出ようと思っている。

 それはレスラー垣原賢人としてのリング復帰だ。つまり、リング上で闘う姿をお見せしようと考えている。

 

「無謀ではないか!」

「まだ早すぎる!」

 

 確かにそのとおりかもしれない。昨年の暮れに行なった精密検査の結果が良好だったとはいえ、もちろん完治したわけではない。抗がん剤治療のダメージだってまだ残っているはずだ。身体だって67kgと一般人より細く、誰が見てもレスラー体形ではない。しかし、だからこそ高いハードルを設けて今こそ前進していくべきだと思ったのである。病気に怯え、守りに入っている生き方ではなく、大胆に攻めていく姿勢を同じ病で苦悩している人たちに届けたい。そして何よりもリング復帰が、これまで応援してくれたファンや関係者の皆さんへの恩返しになるのではと思っている。

 

 そう決意した今、高揚した気持ちを抑えられない状態だ。リングで闘っている姿を想像するだけで体中の免疫細胞が覚醒しているのがわかる。

 やはりレスラーにとって一番のパワースポットはリングなのだ。これは昨年12月のマサ斉藤さんの頑張り(前回コラム「レスラーは、リングで生き様を魅せる」)が何よりも証明している。僕も今こそ「ゴー・フォー・ブロック」の精神で突き進んでいくべきなのだ。

 

 さて、そうと決まったからには、本格的なトレーニングの開始である。これまではウォーキングに踏み台昇降、スクワットや四股踏み、ライオンプッシュアップの中から、その日のコンディションを考慮して行なってきた。短時間でそれほど多くない回数だったので、まだまだリハビリの域を脱していないのが正直なところだ。免疫力が普通の人よりも低いため、過度の運動は控えるよう抑えてきていたから仕方がないのだが……(実際に体力がないのも否定できない)。

 

 メニュー内容も筋肥大を目的としたものではないため、以前のような身体にはほど遠い。正直、今でも鏡で自分の裸を見るのは苦痛を伴う。

 

「そろそろ流れを変えたい」。いつまでも緩いトレーニングを続けていては、気持ち的にもこのまま埋もれていってしまうような気がしていた。

 

「ぬるま湯から脱するのは、このタイミングしかない」

 リングに上がるという具体的な目標が生まれれば、必然的にこれまでよりステップアップしたトレーニングをやるようになるはずだ。要はやらざるを得ない状況に自らを持っていくのである。

 

 すぐに取り掛かったのが基本メニューでありながら、全身の筋肉に効くビッグ3だ。ビッグ3とは、フリーウエイトで行なうスクワットとベンチプレス、デッドリフトのこと。この中で僕が得意なのはベンチプレスなのだが、やってみて愕然とした。

 

「えっ、何この重さ……」

 以前のウォーミングアップ時に挙げていた重量の60kgで、フラフラだった。わかっていたこととはいえ、厳しい現実を突きつけられ大きなショックを受けた。

 

 なんとか80kgまではやってみたものの、これほどまでに重く感じるとは思いもしなかった。ちなみに病気になる2年前は、130kgぐらいまでは普通に挙げられていた。

 

「こんなパワーのない身体で大丈夫だろうか……」

 スパーリングができる状態まで仕上がるのか自分自身を疑ってしまう。

「まぁ、でもこんな気持ちになっているのは、前に進んでいる証拠だろう」

 闘病中は、自分を優しく労わってばかりいたが、これからは追い込んでいかなければいけない。

 

 頭の中では、いつも映画ロッキーのあの曲がリピートで流れている。リング復帰をするのだから甘えは許されない部分も出てくるが、それも楽しんでいきたい。誰もがつらい思いを耐え忍びながら、社会で頑張って生きているのだから僕だって負けてはいられないのだ。

 

 とにかく今は、衰えた現実と向き合わなければならない作業が続くが、そこから目を背けず立ち向かっていこうと思う。『Uの青春』にもはっきりと書いたが、リングに上がってファイトするのは、一度だけ冷やかしで上がるのではなく、継続していくことを目標としている。これは自分に課せられた使命なのだ。

 

 UWFスタイルを残していくというロマンも詰まっているだけに一過性の話題で終わらせるつもりは毛頭ない。

 

 とにかく現時点では、高い理想ばかり思い描くのはよそう。しょっぱい自分を受け入れ、新弟子だった頃を思い出しながら、がむしゃらに一歩ずつ消化していこうと思う。

 

「隠すことなく、リング上ではありのままを見てもらえればいい」

 フリーウエイトで下地ができたら、今度はいよいよ実戦練習のスパーリングだ。もちろん、ここでも焦りは禁物。一歩一歩、目標に向かって着実に前に進んでいこうと思う。

 

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)


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