二宮清純 この人と飲みたい 鈴木尚広さん二宮: さて今回も元巨人の鈴木尚広さんとそば焼酎『雲海』のソーダ割り「そばソーダ」を飲みながら話を続けましょう。
鈴木 よろしくお願いします。

 

二宮: ボトルがどんどん空きそうな感じです。「そばソーダ」はいかがですか。
鈴木 この飲み方は初めてですが、すっきりと軽くて本当に何杯でもいけますね。

 

二宮: 野球にたとえるならば?
鈴木 うーん。「いつでもいけ。どんどんいけ」のサインが出てる感じでしょうか。

 

二宮: グリーンライトですね! ペースが上がりそうですね(笑)。
鈴木 はい。その前におかわりをお願いします。

 

 

 選手をやる気にさせる原監督

 

二宮: 鈴木さんは巨人で20年間、現役生活を過ごされました。一番、影響を受けた選手や指導者は?

鈴木 原(辰徳)監督ですね。一言でいえばとても厳しい監督でした。勝負の厳しさ、勝ちへのこだわりを教えていただきましたね。常々、原監督には「勝つためには、お前はこうしなきゃいけない」と言われていましたよ。

 

二宮: 「お前の長所はなんだ? それでチームに貢献しろ!」という感じですね。
鈴木 はい。あと1軍にいる選手でも「いつでも振るいにかけるからな」という姿勢も自分の闘志をかき立ててくれましたね。厳しい監督でしたが、結果を出せば使ってもらえるからやり甲斐はありました。

 

二宮: 結果を出すと簡単に言っても、鈴木さんの場合は大変ですよね。相手の厳しいマークを受けながら盗塁を決めるんですから相当にハードルが高い。それでも盗塁成功率は8割2分9厘、これは史上最高(通算200盗塁以上)の数字です。結果を出し続けた証拠ですね。
鈴木 そもそも失敗してはいけないシチュエーションで出ていますから、そこは気をつけていました。

 

二宮: 晩年の鈴木さんは代走として「走りのスペシャリスト」と呼ばれていました。当然、若い頃のようにレギュラーとして出場したいという気持ちがあったはずですが、徐々に代走専門になっていくことに葛藤はありませんでしたか?
鈴木 もちろんありましたよ。ただ受け入れるしか選択肢はなかったんですよ。これが若いときだったら「イヤです」と突っぱねていたかもしれないんですが、チームの事情や自分の立ち位置も理解してきたから、割と受け入れることができました。

 

二宮: 「トレードで出してくれ、他の球団で勝負したい」というのはなかったんですね。
鈴木 なかったですね。考えてみたら「巨人で生き残る」「巨人で居場所を確保する」というのが一番かっこいいんじゃないか、と思ったんですよ。

 

二宮: 巨人は補強もどんどんするから常に競争状態ですよね。
鈴木 はい。しかも一時はオフになると他球団の一流選手ばかり入ってきましたから(笑)。トレードやフリーエージェントでどんどん補強されたんですけど、逆に僕はそれをいいモチベーションにしていました。入ってくる人がいるのは仕方がない。じゃあその中でいかに監督に使ってもらえるか。そういう選手になってやろうじゃないか、と逆に燃えてましたね。

 

二宮清純 この人と飲みたい 鈴木尚広さん キャッチャーの顔の向きも観察


二宮: 「走りのスペシャリスト」になってから鈴木さんの走塁はさらに冴えを見せた印象があります。真骨頂は14年7月15日の東京ヤクルト戦、ファーストが弾いた浅いライト前ヒットで二塁から一気にホームまで帰ってきた、いわゆる「神の手」走塁じゃないですか?
鈴木 あの試合はサヨナラ勝ちしたこともあり、テレビで大きく取り上げてもらいました。

 

二宮: あのときタイミングは完全にアウトでした。鈴木さんは走路を右にとってキャッチャーのタッチをかわしました。あれは三塁コーチャーの指示ですか?
鈴木 三塁ベースを回ったあとはすべて自分の目で情報を得ていました。キャッチャーの動き、顔の向きなども参考にボールの位置を把握するんです。それで走るコースを決めて、あとはいかにベースにタッチするかということです。

 

二宮: キャッチャーの動きまでですか……。

鈴木 僕のような一発勝負を求められる選手には、そういう情報を得るセンサーも大事な要素でしたね。

 

二宮: レギュラーなら失敗しても試合中に取り戻せますが、鈴木さんのような1回の勝負、しかも勝ち負けに直結する場面だと失敗は許されませんね。
鈴木 だからベンチにいるときから常に様々なことを考えていました。外野手の守備や送球の癖なども頭に入れてましたよ。

 

二宮: でもそうやって準備しても試合に出ない日もあるんですよね。そうすると拍子抜けしませんでしたか?
鈴木 僕は試合終盤、常に80%のテンションでいたんですよ。20%は「今日は出番はないだろうな」という気持ちを残していました。

 

二宮: 「俺を出せ!」という全開モードではなかったわけですね。
鈴木 はい。やはりどこか冷静な部分を残していないと、長いシーズンは持たないですからね。

 

二宮清純 この人と飲みたい 鈴木尚広さん スピードあるスライディングのコツ


二宮: さて再び盗塁の話に戻りますが、対投手、対捕手、対野手という戦いの他に、対塁審もあったと思います。盗塁の"誤審"はどれくらいありましたか?
鈴木 誤審というと語弊がありますが、何度もアウトだと思ったものがセーフになっていました。

 

二宮: それは「鈴木尚広」という名前でセーフになったんじゃないですか?
鈴木 名前でセーフとは光栄ですが、実はスライディングの技術でセーフに見せていたんですよ。

 

二宮: スライディングの技術の中でも滑り込むスピードは重要ですよね。
鈴木 普通、スライディングは足をまっすぐにしたまま滑るじゃないですか。僕は膝から下を柔らかく使って、最後にスパーンと前に伸ばしていたんですよ。

 

二宮: ベースに向けてシュッとパンチを打つような感じですか?
鈴木 まさにそうですね。そうやって膝下を使ってスパーンと滑り込むと早く見えるし、実際にちょっと早いんですよね。

 

二宮: それは何かヒントがあったんですか?
鈴木 特にヒントはありませんでしたが、アウトのタイミングでも何とかリカバリーできないか、と考えてたどり着きましたね。

 

二宮: その他、スライディングで気をつけたことはありますか?
鈴木 ベースは中央の上側を狙ってました。あと二塁ベースが到達点と思わずに、目標はベースより先に置いていました。

 

二宮: それもスピードを落とさない策のひとつですか?
鈴木 はい。ベースをゴールとして意識するとそこに合わせてしまうので、手前で若干、勢いが鈍る。だからその先を狙うイメージでいけば、ベースまではトップスピードのまま滑り込めるんですよ。

 

二宮: 盗塁はピッチャーが投げてからキャッチャーの送球が二塁に届くまで約3.3秒、その短い間の勝負と言われています。短時間で様々な策を巡らせているんですね。
鈴木 案外、大変なんですよ(笑)。だから当然走れなくなるときもありましたよ。

 

 足にも「スランプ」がある
二宮: 「足にスランプがない」なんていう人もいますけど、とんでもないと?
鈴木 そういうことを言う人はどうなのかな、って思いますよ。盗塁のスランプには「感覚的スランプ」が多いですね。

 

二宮: 感覚的、というと?
鈴木 自分が動こうと思っても動けなくなるんですよ。たとえば今までヒットを打って出塁して盗塁をしていたのが、ヒットが出なくなった。それでたまたま塁に出たときに「絶対に走らなきゃ」とマストの気持ちが強くなる。そういうときに感覚的スランプに陥りやすかったですね。

 

二宮: 空回りしてしまうんでしょうか。
鈴木 そうですね。だから塁に出たら冷静さも必要だし、自分を客観視することも大切でした。

 

二宮: では代走で出ていくときなんてもっと大変ですよね。
鈴木 代走で出る方が本当に感覚的スランプに陥りやすいんですよ。相手と合わせるのが本当に大変でしたから。その中で自分がいかに主導権を握るか。常にそういう駆け引きを塁上でしていましたね。

 

二宮清純 この人と飲みたい 鈴木尚広さん二宮: さて「そばソーダ」のグリーンライトはつきっぱなしです。もう1杯いかがですか。

鈴木 いただきます。僕は盗塁のときに地面を蹴るよりも滑るような感覚を大事にしていました。それと同じく「すいすい」とノドを通るお酒ですね。

 

二宮: 盗塁の極意も「すいすい」ですか?
鈴木 空港や駅に動く歩道がありますよね。あの上を歩く感覚に近いんですよ。地面を蹴るイメージでは前に進む力にならないんですね。

 

二宮: 土のグラウンドと人工芝、盗塁のやりやすさに差はありましたか?
鈴木 膝や腰に負担がかかると言われる人工芝の球場ですが、こと盗塁に関してはパワーをダイレクトに伝えられました。逆に甲子園や昔の広島市民球場など土のグラウンドはパワーをロスしてる感覚でしたね。

 

二宮: 球場によってスパイクを変えることはありましたか?
鈴木 土のグラウンド用にスパイクの歯をミリ単位で長くしたことがあります。土をつかむ力を増やしたかったんですが、逆にそれが抵抗になったので戻しましたね。

 

二宮: 鈴木さんが履いていたスパイクのメーカーは?
鈴木 最後の2シーズンはアディダスを使ってました。それまでずっと別のメーカーのスパイクを履いていたんですが、アディダスを履いたときに最初からスッと馴染む感じがあったんです。そこからはずっとアディダスです。

 

二宮: 履いた瞬間にスパイクの善し悪しが分かるんですね。

鈴木 というよりも第一印象がすべてです。たとえば10足、同じスパイクを支給されても、履いた瞬間に「違うな」と思ったら使わない個体もありましたから。それはスパイクだけでなくグラブも同じでしたね。

 

二宮: さて現役引退後、鈴木さんの今後の活動は?

鈴木 いろいろとやってみたいことがありますが、いずれは巨人のコーチで若手選手を教えてみたいですね。

 

二宮: 盗塁の極意を伝授するわけですね。

鈴木 はい。盗塁をする上でのメンタルの大切さも伝えられたらと思っています。あと一番近い目標としては、2月の東京マラソン出場に向けて目下トレーニング中です。

 

二宮: えっ、いきなりフルマラソンですか。さすが「走りのスペシャリスト」ですね。
鈴木 いや、塁間(27.431m)とは勝手が違いすぎますから想像もできません。

 

二宮: 完走の暁にはまた「そばソーダ」で乾杯しましょう。
鈴木: それを聞くと42.195キロ、頑張れる気がしてきました。

 

(おわり)

 

二宮清純 この人と飲みたい 鈴木尚広さん<鈴木尚広(すずき・たかひろ)プロフィール>
1978年4月27日、福島県生まれ。97年、相馬高からドラフト4位で巨人に入団。俊足を生かし主に代走、守備固めとして活躍。7度のリーグ優勝、3度の日本一を経験した。05年から12年連続で2ケタ盗塁を記録。08年には外野手としてゴールデングラブ賞に輝いた。14年4月に通算200盗塁を達成。その翌月には代走での盗塁NPB新記録(106)をマークし、現役引退までに132個まで記録を伸ばした。15年、オールスター出場。通算盗塁200個以上の選手で史上最高の盗塁成功率.829を誇る。

 


今回、鈴木さんと楽しんだお酒は本格そば焼酎『雲海』。厳選されたそばと、宮崎最北・五ヶ瀬の豊かな自然が育んだ清冽な水で丁寧に造りあげた深い味わい、すっきりとした甘さと爽やかな香りが特徴の本格そば焼酎です。ソーダで割ることで華やかな甘い香りが際立ちます。

提供/雲海酒造株式会社

 

<対談協力>
うらら
東京都中央区銀座8-6-15銀座グランドホテルB1
TEL: 03-6228-5800
営業時間: 朝食バイキング/7時~10時(最終入店9時30分)、ランチ&ディナー/11時30分~翌4時(LO翌3時、土日祝は22時まで。LO21時)
定休日・無

 

二宮清純 この人と飲みたい 鈴木尚広さん☆プレゼント☆
鈴木さんの直筆サインボールを本格そば焼酎「雲海」(900ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼントいたします。ご希望の方はこちらより、本文の最初に「鈴木尚広さんのサインボール希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締切は2月9日(木)までです。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。

 

◎クイズ◎
 今回、鈴木さんと楽しんだお酒の名前は?

 

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。


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