広島がリーグ連覇を果たしました。セ・リーグでは2012~14年の巨人以来。そして広島としては79~80年以来、37年ぶりの連覇です。OBとして非常に嬉しいですね。


 広島が連覇を果たせた理由はシーズン序盤からチームの方向性が見えたことです。リリーフの中崎翔太がいきなりファームに行ったり、先発陣ではクリス・ジョンソンもいなくなるなど、普通ならば戦力ダウンですよ。

 

 でも広島は今村猛が抑えにまわり、ジョンソンの穴は九里亜蓮が先発を務めて埋めました。九里は非常に使い勝手のいい投手で、しかも意気に感じるタイプなんですよ。先発が決まったときは「川口さん、僕、先発ですって!」と嬉しそうに報告に来てくれました。

 

 しかも打率2割7分を超える攻撃陣がバックにいるわけですから、投手としては非常に投げやすかったと思います。常に5~6点はとってくれる打線ですから、序盤に2点くらい失点しても「オッケー、オッケー」という感じですよ。

 

 薮田和樹が15勝、岡田明丈が12勝、大瀬良大地と九里がそれぞれ9勝。去年までならそんなに計算できなかった投手を、ここまで育てたのも打線ですね。打線の援護があるから1点、2点をとられても辛抱強く起用し続けられた。投げてる方も失点しても、すぐに気持ちを切り替えられた。あとは黒田博樹の遺産ですね。彼がフロントドア、バックドアを使ったインサイド、アウトサイドの攻め方を広島の投手陣に徹底的に教え込んだ。黒田イズムが浸透しているのも広島の強みです。

 

 8月にちょっとバタバタっと連敗しましたが、あれは中継ぎ、抑えのブルペン陣に疲れがきたからです。でもブルペン陣はシーズンを通してよく頑張りました。中田廉、一岡竜司、今村、中崎、ジェイ・ジャクソン。今季の広島は終盤の逆転勝ちが多かったのも、中継ぎ陣が踏ん張っていたからでしょうね。今の広島はまさに投打がかみ合った強いチームですよ。

 

 松山の勝負強さ

 攻撃陣は1番から4番の田中広輔、菊池涼介、丸佳浩、鈴木誠也と走れる選手が揃い、そして1番から8番、これは會澤翼が入った場合ですが、全員がホームランを打てるバッターが並んでいるわけです。相手投手としてはこれほどイヤなものはないですよ。交流戦で福岡ソフトバンクと勝ち星で並び、強打のパと互角以上に戦えたのも納得です。

 

 また4番・鈴木誠也が8月に骨折でリタイアした後は松山竜平が見事に穴を埋めています。レギュラー陣トップの打率3割3分2厘、得点圏打率3割7分9厘。チャンスに滅法強い松山にはMVPをあげたいですね。

 

 しかも誠也が骨折した後は投手の左右に関係なく松山はスタメンで起用されています。広島は唯一、横浜DeNAにだけ11勝12敗と負け越していますが、これは今永昇太、濱口遥大らサウスポーの存在があるからですね。クライマックスシリーズでは、当然、DeNAが勝ち上がってくることも考えられます。そうなると左投手との対戦が増えた今の松山なら、DeNAのサウスポーを打ち砕ける可能性が高い。

 

 投手陣の穴、野手陣の穴、すべてがいい方向に転がって埋まったのが今季の広島の強さの秘密だと思います。

 

 とはいえ日本一となるとどうでしょうね。簡単にはいかないと思っています。

 

 レギュラーシーズンと短期決戦ではまったくと言っていいくらい戦い方が代わります。シーズン中、緒方孝市監督、畝龍実投手コーチの継投は石橋を叩いて渡るような慎重策のときと、「もう1回いけるか。もう1人いけるだろう」と欲張るとき、その両方がありました。去年、日本シリーズでジャクソンを継投させて痛い目にあったことをファンの人が覚えているように、首脳陣も当然、記憶しているでしょう。だから同じ轍は踏まないと思いますが、念のために忠告しておきましょう。今の野球で投手を引っ張っていいことはひとつもない、と。84年以来の日本一を見られることをOBとして楽しみにしています。

 

<川口和久(かわぐち・かずひさ)>
1959年7月8日、鳥取県鳥取市出身。鳥取城北高を卒業後、デュプロを経て、81年にドラフト1位で広島に入団。入団3年目に15勝マークすると、86年から91年までの6年連続で2ケタ勝利を挙げ、最多奪三振を3度(87年、89年、91年)受賞した。左腕エースとして活躍し、チームを3度のリーグ優勝に導いた。94年オフに球団史上初のFA権を行使して巨人に移籍。95年にプロ野球史上14人目(当時)となる2000奪三振を達成。98年限りで現役を引退すると、野球解説者の道に進む。09年、10年に巨人の春季キャンプで臨時投手コーチを務めた後、11年に投手総合コーチに就任。4年間で3度のリーグ優勝に導いた。現在は野球解説者として活躍する。通算成績は139勝135敗2092奪三振。身長183センチ、体重75キロ。左投両打。


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