(写真:6月のオーストラリアオープンに続き、今季2度目のSS優勝)

 24日、バドミントンのBWFスーパーシリーズ(SS)「ダイハツ・ヨネックスジャパンオープン」最終日が東京体育館で行われた。女子ダブルス決勝はリオデジャネイロ五輪金メダルの髙橋礼華&松友美佐紀組(日本ユニシス)が予選から勝ち上がってきたキム・ハナ&コン・ヒヨン組(韓国)を2-0で破った。“タカマツ”ペアは同大会同種目3年ぶり2度目の優勝。SS通算9度目の制覇となった。その他の日本勢は男子ダブルスの井上拓斗&金子祐樹組(日本ユニシス)がインドネシアペアに、混合ダブルスの保木卓朗(トナミ運輸)&廣田彩花(再春館製薬所)組が中国ペアにストレートで敗れ、SS初優勝はならなかった。

 

 男子シングルスは世界選手権王者のビクター・アクセルセン(デンマーク)がリー・チョンウェイ(マレーシア)を2-1で下した。女子シングルスはリオ五輪金メダリストのキャロリーナ・マリン(スペイン)がヘ・ビンジャオ(中国)を2-0で勝利を収めた。

 

 世界1位が目指す最強への道

 

 3年ぶり2度目の優勝は大きな自信を手にした1勝だ。あれから3年、多くのタイトルを手にしてきた“タカマツ”ペア。昨年準優勝の悔しさを晴らすジャパンオープン制覇だ。

 

 決勝の相手・韓国ペアとは初対決。実力者のキム・ハナとはこれまでも対戦してきたが、若いコン・ヒヨンと新生ペアである。前日に松友は「非常に楽しみ」と語っていた。BWFランキングは“タカマツ”ペアの1位に対し、韓国ペアは122位。予選から勝ち上がってきて、勢いに乗ってきている相手をどう対処するかに注目が集まった。

 

(写真:優勝が確定した瞬間、喜びを露わにする高橋<左>と松友)

 第1ゲームは競った展開だったが、序盤の3-5から5連続得点、終盤の14-17から6連続得点を挙げる。勝負所で得点を重ねて試合を優位に進め、21-18で押し切った。第2ゲームに入っても、松友が崩し、髙橋の強打で仕留めるパターンが目立った。13-10の場面では、髙橋が連打で押して、最後は松友がコートに叩き込んだ。19-15の場面では松友が相手の裏をかく、絶妙なショットでチャンピオンシップポイントを手にすると、そのまま21点目も難なく決めてみせた。

 

 それぞれに進化の手応えがある。髙橋が「ただ打つだけじゃなく、相手の立ち位置が見えるようになった」と語れば、松友も「ゲームメイクにおいて、以前より見え方ができることが増えてきている」と口にする。多くの経験を経たことで、試合運びも巧くなった。対戦したキム・ハナは「守備も攻撃も良い。相手のミスがもっと多く出ればよかったが、焦ってしまった」と振り返ったように、ミスの少なさも勝因のひとつだ。

 

(写真:コースの打ち分け、緩急の付け方などが成長したという高橋<左>)

 日本代表のヘッドコーチを務めるパク・ジュボンは「1回戦からしっかりしたパフォーマンスができていました」と今大会の“タカマツ”ペアを評価した。松友は「まだまだできることがある」と、のびしろを実感したという。髙橋も「今日でSS9勝目ですが、まだまだ満足はできない」と更なる高みを目指している。

 

 中国ペアに勝ちたい――。バドミントン王国をライバル視しながら、BWFランキング1位、リオ五輪の頂点に立ってきた。「実力も全然1番だとは思っていません。ただ“自分たちが強い”という想いは胸に秘めていて、常にその想いを持ってやっています」と髙橋。彼女が目標に掲げるのは、最強のペアとなることだ。

 

 SSはランキング上位8組までが出場できるファイナルズを含めれば残り5戦である。最強への道はまだ半ば。まずは2014年以来の2度目のファイナルズ制覇でシーズンを締めくくりたい。

 

 新世代のエース、レジェンドを撃破

 

(写真:今季SS2勝目。好調を持続するアクセルセン)

 23歳の新鋭がレジェンドプレーヤーを撃破。ジャパンオープン初優勝を成し遂げた。

 

 昨年のSSファイナルズ、今年の世界選手権を制したアクセルセンは、世界で一番勢いに乗っている若手と言っていいだろう。決勝の相手は五輪、世界選手権でいずれも銀メダル獲得のリー・チョンウェイ。2大大会では“シルバーコレクター”として知られるが、BWFランキングでは長らく1位を保持し、SSは40回以上の優勝を誇る。キャリアでは格段に劣る。

 

 アクセル戦は今大会、決勝まですべてストレート勝ち。2回戦で同世代の西本拳太(トナミ運輸)、準々決勝でBWFランキング8位のスリンカス・ギタンヒ(インド)、準決勝では同1位のソン・ワンホ(韓国)を撃破した。194cmの長身から繰り出す角度のあるスマッシュ、長いリーチを生かしたプレーで快進撃を続けた。

 

 第1ゲームでリズムに乗ったのはアクセルセンだった。「風を含めていろいろなコンディションをコントロールすることができた」。2-1から6連続得点でリードを広げると、その後も小刻みに得点を積み上げていく。リー・チョンウェイの巧みなラケットワークに苦しめられながらも、最後は押し切った。リー・チョンウェイの返球がネットに阻まれ、21-14でアクセルセンが「いいスタートを切れた」と先取した。

 

(写真:時折見せる巧みなラケットワークで会場を沸かせたリー・チョンウェイ)

 第2ゲームは序盤はリードを許す追いかける展開。それでも「スコアが離れても自信はあった」と、10-13から7連続得点がひっくり返した。しかし、ジャパンオープン7度目の優勝を狙うリー・チョンウェイも意地を見せる。アクセルセンは5連続得点を許すなど、再逆転されて、このゲームを19-21で落とした。

 

 ここで完全に流れを譲らないのが、近年の飛躍の理由か。「2ゲーム目は過去のこととして、気持ちを切り替えて自信を持って臨めた」とアクセルセン。5点を先取して主導権を握る。着々と加点していき、最後は鋭角なスマッシュがコート隅に決めた。21-14でファイナルゲームまでもつれた試合を終わらせた。

 

(写真:長身と長いリーチを生かし、シャトルを拾うアクセルセン)

「とても自信に満ちたプレーだった。非常に落ち着いてプレーをできるようになったことで、更に技術が上がった気がします」。敗れたリー・チョンウェイもアクセルセンの成長を認める。アクセルセンは「ここ数週間は身心ともにいい状態です。ベストなパフォーマンスを保てている。しっかりと努力すればタイトルに近付くことはよく分かりました」と胸を張る。

 

 今大会の優勝により、BWFランキングでは初の1位浮上が濃厚だ。「世界選手権優勝と世界ランキング1位は長年の夢でした。それが実現することはうれしいと同時にランキングだけに重きを置いて物事を見ているつもりはありません。1試合1試合を集中して取り組んでいけば、世界ランキングは結果としてついてくる」。今後はデンマークオープン(SS)にエントリーし、母国での凱旋Vを目指す。

 

 アクセルセンは今年5月より謹慎処分から復帰した桃田賢斗(NTT東日本)とも同世代。国際大会でも結果を残してきている彼について聞かれると、「非常に良いプレーヤー。対戦相手としても尊敬している。バドミントン界に求められている存在。戻ってくるのを楽しみにしています」と答えた。年内の直接対決は見られないかもしれないが、来季から新世代エース争いは熾烈になる。

 

(文・写真/杉浦泰介)