田口竜二(元プロ野球選手、(株)白寿生科学研究所人材開拓課長)第39回「企業と連盟。セカンドキャリア支援はウインウインの関係で」
皆さん、こんにちは。プロ野球はいよいよポストシーズンに入ります。応援しているチームはクライマックスシリーズ進出は果たしましたか? 日本一を目指してまだまだ熱い試合が続いていくので、その熱さに負けないよう応援よろしくお願いします!
さてCS、日本シリーズと盛り上がるこの時期は、一方で戦力外となって解雇される選手が続々と出てくる時期でもあります。自分が2軍マネジャー時代の話をすると、会社から「あの選手に何日の何時に会社に来るよう伝えてください」と言われ、選手にそれを伝えるのも仕事のひとつでした。私が「あなたはクビです」と言うわけではありませんが、あまりいい気分ではなかったのを覚えています。どのチームも同じだと思いますが、この時期の2軍マネジャーは皆、心を痛めながら働いていると思います。
そんな状況なので、選手たちも我々からの電話に戦々恐々としています。こちらとしては用があれば連絡するから、そこまで深くは考えていないのですが、以前、こんなことがありました。戦力外か残留か、当落線上にいる選手に用件があって連絡しました。留守電だったので何もメッセージを入れずに切ったら、数時間後に「僕はクビですか?」と不安そうな声で折り返しが入ったのです。
「あ、ごめん、ごめん。別にその電話じゃないよ」と言うと「田口さん、勘弁してください。履歴に田口さんの名前があった瞬間、”ついに来たか……”と目の前が真っ暗になってしまいましたよ。あ~良かった……」と不安声から安堵の声に変わりました。まあいずれにしても、自分がクビになる選手を決めたわけではないのに、最終通告をしてるみたいでとても嫌な仕事でしたね。
今日はプロ野球選手を含めたアスリートのセカンドキャリア支援の話をさせていただきます。
プロ野球界に限れば、セカンドキャリア支援に対して真剣に取り組んでるとは言い難い状況です。選手会は基本として現役選手の権利を守る会なのでセカンドキャリア支援に力をそこまで入れなくてもいいと思うのですが、NPB(日本野球機構)と野球振興会(OB倶楽部)はもっと本腰を入れるべきじゃないか、と常々思っています。
数年前からNPBが行っている「引退後にやりたい仕事や興味のある仕事は?」というアンケートによると、常に上位に入るのが飲食店です。この結果を見たのかどうかは不明ですが、あるビール会社の方が私を訪ねてきたことがありました。その人は「飲食業を始めるには事前にどれくらいの資金が必要で、人件費や家賃などランニングコストはどれくらいかかるものか。そうした飲食店経営に関する諸項目を詳しく資料にしているので、選手たちの前で話ができるようにしていただけませんか?」と言うのです。
企業とのいい関係
とてもいい話ですが当然、私には選手を集めるような力はないので、NPBの担当者を紹介することにしました。それで一緒に説明に行ったところ、こう言われました。「いい話ではあるけど、NPBは一企業とはやり取りしない。個別にチームに話してはどうか?」と。選手にとっていい話なので簡単には引き下がるわけにいかず、「秋のフェニックスリーグでは12球団が宮崎に集まります。その時にNPBから各球団に”飲食業に興味を持つ選手に対しセミナーを行うので選手に声を掛けて下さい”と言っていただくことはできませんか?」と聞いたところ、「NPBは各球団にそんなことは伝えない」とにべもなく断られてしまいました。
このときに「NPBはセカンドキャリア支援について大して本気で考えてないんだな」と知ることとなり、とても落胆しました。以来、私の所にこういうお話が来ても、とてもNPBを紹介する気にはなれず、お断りしているのが現状です。
またこうした話は野球界だけではありません。先日あるスポーツクラブを運営している方々と会ったときにこんな話が出ました。
「アスリートのセカンドキャリアに関して、引退した選手たちが我々が権利を持つスポーツクラブの運営をするのはどうだろう、と考えたことがありました。その相談をしたいと思っていくつかの競技団体を紹介してもらい、話をしに行きました。ところが、どこの団体も”では、いくら払ってくれるんですか?”という話になるんですね。こちらは純粋にセカンドキャリア支援を考えているのに、二言目には”カネ、カネ”でがっかりしました。セカンドキャリア問題ってお金だけで片付くことなんですかね」
私も以前から同じような疑問を持っていました。選手のセカンドキャリアを支援、応援したいと考える企業からお金を取るとは何事だ、と。
本来ならば逆に「ありがとうございます。引退後のサポートしてくれる企業があるおかげで現役の間、選手は心置きなくプレーができます」と言うのが本当ではないでしょうか。もちろん企業側もいい人材を確保するわけですから「無料では申し訳ない。紹介していただき、入社したらもちろん相応の金額をお支払いしますよ」と、自然とウインウインの関係になるのがあるべき姿、それこそがセカンドキャリア支援ではないかと常に考えています。
「お金くれるなら、選手に会わせてもいいよ」という現状は、セカンドキャリア支援でも何でもないのではないでしょうか。私ひとりの力では何も変えることはできないとわかっていますが、それでも微力ながら役立つことはあると信じています。これからもアスリートのセカンドキャリア支援に力を注いでいきます! では、また次回よろしくお願いいたします。