(写真:今回はスペシャルトークの後編。進行役は引き続いて編集長の二宮)

二宮清純: 「白球徒然 ~HAKUJUベースボールスペース~」、本年もよろしくお願いします。今回はシーズンオフスペシャルトークの後編をお送りします。ゲストは白寿生科学研究所副社長・原浩之さん、元巨人の西本聖さん、元横浜の高木豊さんです。よろしくお願いします。
一同: よろしくお願いします。

 

 巨人再建は補強より育成

二宮: 白寿生科学研究所はセカンドキャリア支援やスポンサーとして多方面でプロ野球に貢献しています。オフのこの時期は一ファンとして様々なチームの補強状況や新シーズンに向けての動向が気になるのでは?
原浩之: そうですね。「あそこのチームはこういう補強をしたから……」と新たな勢力図を予想するのが楽しい時期です。スポンサーを務めるBCリーグからNPBに進んだ選手の動向も気になるし、シーズン中と同様、いやそれ以上にニュースのチェックが欠かせない毎日です。

 

(写真:白寿生科学研究所副社長・原浩之氏。プロ野球選手のセカンドキャリア支援にも携わっている)

二宮: さて、昨シーズンを振り返ると巨人が11年ぶりのBクラスに終わりました。OBとして歯がゆい思いをしたことでしょう。西本さん、低迷の原因は?
西本聖: オフに実施した補強、そして序盤の選手起用がチグハグだったのが原因ですね。

 

原: FAやトレードなど総額30億円超の補強と言われていましたが……。
西本: その補強が本当にチームの弱点を補うものだったのか、ということです。16年シーズン、坂本勇人が首位打者に輝きましたが、チームの打点王は81打点の村田修一。彼はホームラン25本で打率も3割以上をマークしたポイントゲッターです。となると補強ポイントはセカンドでした。

 

高木豊: でも獲得したのはサードが本職のケーシー・マギーだった。
西本: そう。序盤はマギーをサードのレギュラーで使って、村田はベンチでした。ポイントゲッターがいない打線では得点力は期待できない。

 

二宮: そこでシーズン途中からマギー選手をセカンドに回して、村田選手をサードに入れました。
西本: 4位に終わったものの最後はCS進出を争うところまでチームが回復したのは、この配置転換のおかげでしょうね。

 

二宮: 今季はその村田選手を"若返り"を理由に戦力外にしました。若手選手の奮起と成長に注目が集まりますね。
西本: 4年目の岡本和真など、チャンスをもらったことでグッと伸びてほしいものです。

 

原: 監督力という部分ではどうなのでしょう。野村克也さんはよく「外野手出身は監督に向いていない」とおっしゃっていますが……。
高木: まあ監督の技量は、どのポジション出身かどうかでは決まらないでしょうね。

 

二宮: というと?
高木: 当たり前のことですが、監督として勉強しているかどうかが大事です。現役引退、即監督就任となった高橋由伸にその時間があったかどうか、そこが気になります。

西本: あと巨人はフロントの人たちがよく「若手が育ってこない」と口にしていますが、これもどうなのかな、と。"育ってこない"ではまるで他人事です。"育てられていない"という当事者意識を持ち、育成環境を見直すことも必要じゃないでしょうか。

 

(写真:巨人、中日、オリックスで活躍した西本聖氏。孤高のエースとして165勝を積み上げた)

 

 プロの水は甘くない

二宮: 昨シーズンはパ・リーグが西武・源田壮亮選手、セ・リーグが中日・京田陽太選手とショートの選手が揃って新人王に輝きました。これは史上初のことです。
西本: 2人の受賞に異論はなく、とても素晴らしいことだと思います。ただチームの要であるショートに新人がポンッと収まるのはどうなんだ、という思いはありますね。

 

原: 野球は二遊間を含むセンターラインが重要だ、とよく言われます。
西本: そう、そこに新人がポンッて……。昔はショートのレギュラーポジションが空くなんて考えられなかった。

 

高木: 僕がいたころ、大洋のショートは山下大輔さんが絶対的存在だったし、他球団もそうでした。巨人なら河埜和正さん、中日には宇野(勝)がいて、広島には(高橋)慶彦さんがいた。
原: 懐かしい名前ばかりです。新人のショートが活躍したのは、昨季からゲッツー崩しを狙った危険なスライディングが禁止になったのも大きいのでは?

 

二宮: 大型ショートとしてプロ入りした元広島の木下富雄さんに話を聞いたことがありますが、「プロに入って一番、面食らったのはスライディング。明らかに足を狙ってくるえげつないものばっかりだった」と言っていました。
高木: 確かにゲッツー崩し禁止のルールは追い風になったと思います。あのルールは野手としては大歓迎ですよ。こっちもランナーのときは足を狙うからお互いさまなんですけど、プロのゲッツー崩しは強烈でしたから。特に外国人選手のはね。

 

二宮: 野手としては避けるのが大変だと? 
高木: いや、やられっぱなしではありません。コーチから指示が出ますが、送球をランナーめがけて投げていました。もちろんぶつけはしないですけど、身を守るためにはそれくらいしないと……。
原: まさにやるかやられるか。昭和の野球という感じですね。

 

二宮: 今季、注目のルーキーといえば北海道日本ハムの清宮幸太郎選手です。
原: どこに行っても「清宮はどうだろうね」というのが挨拶がわりです。西本さん、高木さんは清宮選手をどう見ていますか。

 

高木: バッティングを見る限り木製バットも問題なさそうです。リストも柔らかいし、十分に対応できるでしょう。
西本: どれくらいの選手になるのか楽しみです。ただプロで一流打者になるのは簡単ではないと思いますよ。

 

原: 高校通算111本の実績をもってしても?
西本: はい。111本打ったといっても高校生相手です。プロのいいピッチャーから打てるかどうか。プロの球にいかに早く慣れるかどうかでしょうね。

 

二宮: 先輩が簡単に打たれると「プロはなんだ!」となってしまう。 
西本: プロの水は甘くない、という意地を見せてもらいたい。ただ今のピッチャーを見ていると「こいつに打たれてなるものか」という気概があまり感じられませんね。たとえば二刀流の大谷翔平。彼への攻め方を見ていると、みんな優しいんですよ。

 

二宮: インコースを厳しく突くボールが少ないと?
西本: そう。大谷は5年間でデッドボールをほとんど受けていないんじゃないですか(編注・通算4死球)。何もぶつけろというのではなく、厳しく攻めるときは攻めないとって思います。

 

原: 最近は選手がみんな仲良しですからね。西本さんや高木さんの時代は?
高木: グラウンドで会って挨拶するくらいでしたよね。
西本: そう。仲が良い悪いじゃなくて、それが普通でした。今はWBCなど日の丸を背負って代表で戦う機会が増えたから、他球団の選手との垣根がなくなったんでしょうね。でも、それにしても……。

 

二宮: いかがなものか、と?
西本: だって、グラウンドでは敵同士ですよ。ヒットで出塁したバッターに塁上で野手が「ナイスバッティング」とか、僕がピッチャーなら「おいおい、ふざけるな」という気分になりますよ。それに見てるお客さんだって、そういうシーンばかりじゃ白けちゃいますよ。

 

(写真:ショートとセカンドで計3度のベストナインに輝いた高木豊氏。俊足巧打堅守で知られた)

 

 達川を無視して挑発

二宮: 今は自主トレも他球団の選手とやりますよね。
西本: あれこそ禁止にすべきです。僕が現役で投げていて、チームメイトが自主トレで一緒になった相手チームの野手にシュートの打ち方を教えたとしたら……チームの勝ち負けに関わってきますよ。

 

高木: 中日監督時代の星野仙一さんは徹底してましたね。
西本: 星野さんのときは(他球団の選手と)挨拶をするのも禁止だったんじゃない?

 

高木: 球場に行って宇野がいたから「おう、おはよう」って言っても、あいつ無視するんですよ(笑)。あれ、聞こえてないのかな、ともう一回言っても答えない。なんなんだよ、って思っていたら、宇野がこっそりと「うち、挨拶も禁止だから、すまん」って。
二宮: 程度の問題でしょうが、戦いという側面から見るとそれが正しい気がしますね。

 

高木: そういえば他球団の選手とのコミュケーションといえば、こんなエピソードがあります。
原: なんでしょう?

 

高木: 広島の達川(光男)さんは皆さんもご存知のようにグラウンドでもよく喋る人だった。守備のときも塁に出ても、いつでもどこでもです。それであるとき監督(近藤貞雄)から「タツのことは無視しろ」ってお達しが出た。
原: 無視ですか(笑)。

 

高木: 「あいつは人と喋ることでテンションを上げて調子に乗る。だからあいつと喋るな。挨拶もするな」と。

二宮: それで、どうなりましたか? 
高木: 最初のうちは「なんやお前ら、今日は喋らんのかー」と余裕だった達川さんでしたが、途中から「なんや無視か。豊、覚えとけよ、やっちゃるけえの」って明らかにイライラしてました。「うわ、この人、何こんなにヒートアップしてんの」と思いましたが、あれじゃ試合に集中できなかったでしょうね。

 

二宮: アハハ。達川さんらしいエピソードですね。さて、そろそろお時間の方も迫ってきました。今季の予想をうかがいましょう。セ・リーグは広島のリーグ3連覇がなるか、どうかが注目ですが……。
西本: いけるでしょう。

 

原: その確率は?
西本: 80%の確率で広島が3連覇。他のチームよりも野手の力量がずば抜けています。チームというのは優勝することで成長するんですけど、広島はまさにその状態です。勝つことで選手が育ち、そしてまた勝つ。チームがいい流れに乗っていますよね。

 

原: クライマックスシリーズで広島を破ったDeNAはどうでしょうか?
高木: DeNAが優勝するにはあとは中継ぎ陣の整備でしょう。抑えの山崎康晃にまでいかにつなぐか、そこを解決できればリーグ優勝の可能性は十分にあります。

 

西本: ラミレス監督は頭がいいから、その点でもアドバンテージですね。

高木: あと怖いのは阪神ですよ。金本(知憲)が監督になってチームにピシッと規律ができた。若手を使いつつ徐々に伸びてきている。いずれにしてもこの3球団の争いになると予想します。

 

二宮: パ・リーグはどうでしょう。
西本: ソフトバンクが選手層の厚さを考えても頭ひとつ抜けているでしょうね。
原: ソフトバンクは佐藤義則コーチが退団して東北楽天に移りました。あと広島は石井琢朗コーチと河田雄祐コーチが退団して東京ヤクルトに。コーチングスタッフの面で見ると、これまでの勢力図が塗り替えられそうな予感もあります。

 

二宮: その他、注目の選手がいたら教えてください。
西本: DeNAの育成・笠井崇正に注目しています。台湾のウインターリーグでピッチングを見ましたが、非常にいいボールを放っていました(編注・1月12日に支配下登録)。
原: 彼はBCリーグ信濃の出身です。BCリーグも四国アイランドリーグPLUSもいい選手を輩出しているので、今季はぜひ注目してみてください。

 

高木: 最後にひとつ、いいですか。
二宮: なんでしょう。
高木: 西本さん、あのシュートどうやって投げていたか、握り見せてもらえませんか。
原: 今ですか(笑)。
高木: いや、だって現役のときは聞くわけにもいかず、ずっと機会がなかったもので。
西本: いいよ。これ、こういう風にボールの縫い目2本に指をかけて、今でいうツーシーム。この方がボールと指が長い時間接しているから変化させやすい。 
高木: ほうほう、なるほど!

 

二宮: えー、話はまだ尽きないようですが、このあたりでお開きといたしましょう。皆さん、今日はありがとうございました。
原: また機会があれば、昭和の野球話をたっぷりとお願いします。
西本・高木: ぜひとも。

(おわり)


◎バックナンバーはこちらから