節目の10シーズン目を終えた四国アイランドリーグPlusから、今年は4選手が10月のドラフト会議で指名を受け、NPB行きの夢を叶えた。東京ヤクルト4位の寺田哲也(香川)と、東北楽天5位の入野貴大、中日8位の山本雅士(ともに徳島)、巨人育成1位の篠原慎平(香川)である。NPBでのさらなる飛躍が望まれる指名選手から、今回は入野のアイランドリーグでの成長ぶりを紹介する。
(写真:「スピード、コントロール、変化球、すべての面でレベルアップさせたい」と楽天での決意を語る)
 桃栗3年柿8年といわれるが、入野は四国の地で7年かかって果実を実らせた。
 高知県出身で岡豊高時代はピッチャー兼ショート。チームの4番を打ち、高知県選抜に選ばれたこともある。広島県のプロ育成野球専門学院を経て、トライアウトに合格し、愛媛に入団したのは19歳の時だった。愛媛では主にリリーフとして1年目から毎年30試合以上に登板。2011年には半数を超える41試合に登板して防御率1.74の好成績を残した。細身の体ながら、キレのいいストレートを投げ込み、ドラフト指名は、あと一歩のところまで近づいてきた。

 しかし、その年も翌年もNPBからの誘いはなかった。
「何かを変えないといけない」
 入野は環境を変える決断をする。それが徳島への移籍だった。ピッチャー出身の島田直也監督(来季より横浜DeNA2軍投手コーチ)の下、NPBへのラストチャンスに賭けた。

「技術は愛媛の頃と大きく変わっていないと思います。変わったとすれば気持ちの面でしょうね」
 そう入野は徳島での成長を自己分析する。横浜、ヤクルトでリリーバーとして活躍した指揮官は、選手たちに「練習から試合を想定して取り組む」ことを徹底した。
「投内連係の練習でもミスをすると、すごく怒られました。“練習でやったことしか試合ではできないんだ”と」

 いかに意識を高くして日々を過ごすか。入野は徳島に来てからトレーニングはもちろん、食生活も改善した。決して多くはない給料の中から、栄養のバランスを考えて、体にいいものをたくさん食べた。栄養が不足する部分はサプリメントで補った。「体重は変わっていませんが、体幹は強くなりました」と本人は明かす。

 徳島での1年目はセットアッパーとして39試合に登板。防御率は0.81と安定感は抜群だった。チームもリーグ優勝を果たし、最高のシーズンになるかと思われたものの、ドラフト会議で名前を呼ばれることはなかった。

 迎えた今季、「7年目で本当に最後のつもり」で入野はシーズンに突入した。オープン戦では前年同様、中継ぎ役。だが、開幕直前、入野は島田から予想外の打診を受ける。
「先発に回ってほしい」
 先発のコマが足りないチーム事情で急遽、転向を命じられたのだ。

 愛媛時代から先発はローテーションの谷間に経験した程度。本格的にスターターで投げ続けたことはない。調整法、ペース配分、すべてが手探りのまま、シーズンは開幕した。
「最初は全然ダメでしたね。でも、投げていくうちに力の入れどころがわかってきたんです」

 それまでの入野のピッチングには短いイニングで全力投球しようとするあまり、ムダな力みがあった。ところが、先発ではペース配分をしないと最後まで投げきれない。これにより、余計な力が抜けたのだ。リリースポイントの瞬間に100%の力を集中させる。先発転向で、右腕はピッチングのコツをつかんだのである。

「今年は“キャッチボールみたいに投げているね”と言われました。それだけ今までは力んでいたということでしょう。先発で投げていく中で、いいフォームにたどりついたと思います」
 スマートフォンを活用し、自身のフォームも研究した。動作解析アプリをインストール。自身の投球動画をスロー再生したり、途中で止めたりしながら、腕の振り、顔の位置、ステップの幅を細かくチェックした。

「先発を経験したことで、入野はピッチングにメリハリがつくようになりました。力をうまく抜いてボールをコントロールする術を覚えましたね。目いっぱい放らなくても力の入れどころを押さえれば、いいボールは投げられます。ストライク、ボールの出し入れや、勝負どころでのウイニングショットでバッターを打ち取れるピッチャーになったのではないでしょうか」

 島田はこの1年での入野の変化をそう指摘する。前期は先発、後期は中継ぎや抑えでもフル回転。16勝3敗2セーブ、防御率2.43の成績で最多勝のタイトルを獲得した。リーグチャンピオンシップ、独立リーググランドチャンピオンシップでは先発した4試合ですべて勝利。リーグ2連覇と、球団初の独立リーグ日本一の立役者となり、文句なしの年間MVPに選出された。

 ドラフト当日、入野は楽天カラーであるクリムゾンレッドのネクタイを締めていた。だが、本人は「楽天からの指名を想定していたのではない」と明かす。
「あのネクタイは、高校卒業のお祝いに中学時代の野球部の先生にいただいたものです。お世話になった方から、初めてもらったネクタイだったので、当日はこれを着けていこうと思いました」
 これも何かの縁だったのだろうか。ネクタイの色に導かれるように、待ちに待った朗報がテレビ画面の向こうから届いた。

 四国で育った7年で、19歳の少年は26歳になった。ようやく実った果実を、仙台の地で熟成できるか。大切なのはここからだ。
「先発、中継ぎ、抑え、すべて経験しているのは僕の強みだととらえています。それに7年間、大きなケガもなく、ずっと投げ続けてきたこともアピールポイント。どんな役割になろうとも、与えられたポジションで投げたいですね」

 今季、中日で新人王争いに加わった又吉克樹(元香川)の活躍には大いに刺激を受けた。
「一緒のリーグでやっていた選手が、次の段階に進んで結果を出している。僕もやってできないことはない。励みになりました」
 1年目の目標は「1年間1軍で投げること」。又吉のごとくフル回転できれば、豊潤の秋がやってくる。

>>ヤクルト4位・寺田(香川)編はこちら(「神宮つばメ〜ル」のコーナーより)

(石田洋之)