「この試合で監督を辞任するから」
 7月27日の朝、突然、白石静生監督から重大発言が飛び出しました。そして監督代行就任の話が僕のところにやってきました。今年より徳島のコーチになって約半年間、白石監督はしっかりとした方針をもって、チーム作りをしていました。そして、本当に選手たちは一生懸命練習に取り組んでいました。監督代行になっても目指す方向は同じ。その思いで、チームを指揮する立場を引き受けることにしました。

 徳島のチーム方針は、試合の勝ち負けはもちろん、しっかりとした野球人、社会人を育てること。NPBを目指しているからといって、全員が上のレベルに行けるわけではありません。大部分の人間は、ここでユニホームを脱ぎ、新たな道を選択することになります。その際に、自分が納得し、次への一歩を踏み出せるか。この点を大切にしていました。前期は5位、後期は現状最下位と結果が出ていない点はファンのみなさんに申し訳ありませんが、監督の方針が間違っているとも思いません。

 実は高知でコーチをしている時の徳島の印象は「選手から一生懸命さが感じられない」。成績が良くないこともあってか、相手ベンチからみても雰囲気が暗いというイメージがありました。しかし、実際に中に入ってみると、選手たちは苦しい状況を打破しようと、ビックリするくらい練習を重ねています。10時〜16時までの全体練習が終わった後も、食事を挟んで夜間練習が始まり、僕が部屋にたどり着くのは23時。まさに朝から晩まで野球漬けの日々です。

 努力の成果をいかに個人の結果やチームの勝利に結びつけるか。それが僕に課せられた役割です。徳島は初年度を除いて3年間、優勝争いをしたことがありません。そのせいか、香川などの上位チームと比べると、勝負どころで踏ん張りきれないケースが目立ちます。試合を左右する状況の中で何を考え、何をすべきか。間をとったり、指示を出したりするなかで、選手たちが学んでいってほしいと感じています。

 8月は夏休み期間中で連戦が続きます。投手陣は現時点の登録が7名と、このままでは足りません。でも、ケガのため選手契約を解除していたサイドスローの宮島裕二(花咲徳栄高−旭川大)がもうすぐ復帰できそうです。加えて新加入の選手もトライアウトで確保する予定で、なんとか頭数は揃うでしょう。

 野手では主に1、2番を任せている金城直仁(普天間高−神奈川大)、金丸勝太郎(横浜隼人高−法政大−日産自動車)の2人がいかに打率を上げてくるかがポイントです。盗塁は金城が23個、金丸は28個も決めているように、2人の共通の武器は足です。ところが打率は金城が.189、金丸が.208。俊足を生かせるレベルまで達していません。

 金城には「振りすぎでもいいからフルスイングをしよう」とアドバイスしています。NPBでは当て逃げのようなバッティングでは通用しません。まずはしっかりバットを振り切ること。これが大切です。今までのスタイルから脱皮しようとしている分、打率が伸びない面もあるのでしょうが、ぜひ足と打撃で相手に嫌がられる打者に変身してほしいものです。

 もうひとりの金丸は7月後半、ずっとヒットが出ない状態が続いていました。彼もボールを当てに行くようなバッティングをするため、ヘッドが下がっています。彼にはバットをインサイドアウトに振り、後ろからコンパクトに出すように伝えました。金丸は法大、日産自動車と名門野球部でプレーした実績を持つ選手です。ただし、現状の打ち方では上を目指すことはできません。リーグで試合を重ねる中で、このことに本人も気づいたのでしょう。リーグ選抜の一員に選ばれたフューチャーズ戦では2本の2塁打を放ったように、変化の兆しは見えつつあります。

 白石監督が辞任を発表した時、選手たちは全員が固まっていました。中には泣いている選手もいました。「ゆっくり考えなさい」。そう伝えると、芝生の上にひっくり返って、誰も動こうとしませんでした。
「プロは誰かが結果の責任をとらなくてはいけない。では、自分たちは責任をもってプレーをしていたのか。監督はみんなの代わりに責任をとったんだと思う」
 選手にはそんな話をしました。
 
 監督が辞任した後の3連戦は残念ながら1勝2敗と負け越しましたが、少なくともこれまでのズルズル負けるチームではなくなりました。スタジアムへ足を運んでいただいているお客さんのためにも、スカウトへのアピールのためにも、僕たちに捨てゲームや消化試合はありません。勝っても負けても最後の最後まであきらめない姿をみせることが明日につながるのです。

 僕はあきらめません。徳島というチームを、そして選手たちを。


森山一人(もりやま・かずと)プロフィール>: 徳島インディゴソックス監督代行
 1973年12月19日、島根県出身。現役時代は右投右打の外野手。邇摩高より91年のドラフト6位で近鉄に入団。俊足強肩を持ち味としていたが、1軍出場の機会がなく、00年にはダイエーへ。同年10月のオリックス戦で放ったプロ初安打が初本塁打となる。02年限りで現役引退。アイランドリーグが誕生した05年から高知のコーチを務め、指導した角中勝也や白川大輔(いずれも千葉ロッテ)らがNPB入りを果たす。今季から徳島へ移籍。白石監督の辞任を受け、8月より監督代行に就任。


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