第1194回 長い略称「MUFG国立」短命に終わらぬことを願う

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 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が国立競技場のネーミングライツ(命名権)を取得したと発表したのは先月15日。契約金は5年総額で国内最高の100億円と報じられた。世界最大級の金融グループによるナショナル・スタジアムに対する命名権料であるならば、まあ妥当な額か。

 

 問題は呼称と略称である。前者が「MUFGスタジアム」で後者が「MUFG国立」。どちらも長過ぎないか。「今夜、サッカー日本代表の試合はどこでやるの?」「MUFGスタジアムだよ」。ファンの間でこんな会話がかわされるとは、どうにも思えない。呼びやすさを考えれば「エムエフ」とか「エムスタ」、あるいは「エムコク」くらいでいいのではないか。

 

 たまたまつけたテレビでスタジアムをバックに、ニュース番組のリポーターが、道行く人にインタビューするシーンを目にした。「国立競技場の新しい呼称が発表されました!」「あのォ、何だったっけ? SMBC?」。おいおい、それは三井住友銀行だろう。

 

 スタジアムを利用する機会が多い旧知のサッカー協会とラグビー協会の幹部にも聞いてみた。最も多かった回答は「コクリツでいいんじゃないの」というもの。それでは巨費を投じて取得したネーミングライツの意味があるまい。

 

 

 呼称や略称がいかに大事か。それは以下の失敗例からも明らかである。

 

 国鉄が分割民営化されたのが1987年。それを機に首都圏を走る山手線や中央線は従来の「国電」から「E電」へと名を改めた。

 

 公募したところ「E電」は20位と人気薄だったにも関わらず、JR東日本は「響きがいい」「親しみやすい」などといった理由で選出した。ある選考委員は「E電のEはEast(東)、Everyday(毎日)、Enjoy(楽しむ)、Economy(経済的)。実に語呂がいい」と得意気に選出理由を説明した。あれから38年、私のまわりに「これからE電に乗って帰るよ」などと言っている者は、ひとりもいない。選考委員会のお歴々は、今どんな思いでいるのだろう。

 

 首都圏に「E電」が華々しく(?)デビューした翌年、中央線の水道橋駅から徒歩3分のところに立地する後楽園球場が、国内初の全天候型多目的スタジアム・東京ドームに生まれ変わった。その威容が、巨大なタマゴのように見えたことから、開業当初は「ビッグエッグ」なる愛称で呼ばれた。「Big Entertainments&Golden Games」の略称だったとの説もあるが、どうにもこじ付けくさい。こちらも「E電」同様、短命に終わった。

 話をスタジアムのネーミングライツに戻そう。成功例としては「味スタ」(東京スタジアム)や「エスコン」(エスコンフィールドHOKKAIDO)が思い浮かぶ。双方ともに短く、語感がいい。老婆心ながら「MUFG国立」が死語の仲間入りをしないことを願っている。

 

<この原稿は25年11月5日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>

 

 

 

 

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