火の鳥が、佐藤駿を聖域へと導いたのか ~フィギュアスケート団体戦~
ミラノ・コルティナ五輪フィギュアスケート男子シングル日本代表の佐藤駿(エームサービス/明治大学)は、個人戦前に行なわれた団体戦で早くも貴重な経験を積んだ。
アイスダンスのリズムダンス、ペアと男女シングルのショートプログラム(SP)からなる予選を2位で通過した日本。フリーダンス、ペアと女子のフリースケーティング(フリー)終了時点、日本は順位点で米国と59で並んだ。
日本の男子フリーは佐藤。米国はイリア・マリニンが出場した。団体戦、米国と金銀をわける戦い、世界王者とのアンカー対決。このシチュエーションの中、佐藤は堂々と「火の鳥」を演じた。
マリニンはジャンプにミスが生じたものの構成なども関係し、高得点となる200.03点を叩き出した。
佐藤も素晴らしいパフォーマンスを披露した。4回転ルッツ、トリプルアクセル(3回転半)+1オイラー+3回転サルコー、4回転+3回転のトーループ、4回転トーループ、トリプルアクセル+ダブルアクセルのシークエンスジャンプ、3回転ループ、3回転ルッツと全てのジャンプを決めた。観る者を魅了した佐藤は、フィニッシュポーズをほどくやいなや、右腕を大きく振ってガッツポーズをつくった。
佐藤はキスアンドクライで「194.86点」という自己ベストを更新したスコアを目にして、泣いた。「うれしさ半分、悔しさ半分」と彼は涙の成分を語った。
おそらく“ここまでできた自分”と“まだできる自分”を確認したのではないだろうか。「悔しさ」を埋める要素はある。その一部をあげるとすれば、基礎点が1.1倍になる演技後半に4回転を入れることや、レベル2と評価されたステップの改善などだろう。
仮に上記がスタミナ不足によるものだとしよう。スタミナは短期間でつくものではない。日本時間11日未明に始まる男子SPまでにいきなりつくものではない。原因が技術によるものだって、しかりだ。
フィジカル的、技術的なことは二の次だと私は考える。そんなことより、大きな収穫と言える事柄が2つある。1つ目は、佐藤が世界選手権を2連覇している相手に勝つ気でフリーに臨み、土俵際まで追い込んだことだ。最終的に回避したが、直前の6分間練習で予定にない4回転フリップを試したのはその証左であり、回避もまた勝ちにいくための選択だった。2つ目は、大健闘の末に更新した自己ベストスコアをもってして「悔しさ」を抱いたことだ。
さまざまな状況が重なり、「火の鳥」が佐藤を“ある聖域”の入り口に導いたように私には映った。
“己に勝った上で勝ちたい”という聖域――。
もし佐藤がその入り口に立ったのなら、それは「火の鳥」を演じる者たちの性なのかもしれない。
(文/大木雄貴)