井上尚弥vs.中谷潤人 無敗決戦は王者が貫禄の判定勝ち ~ボクシング世界戦~

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 2日、ボクシングダブル世界戦が東京ドームで行なわれ、世界スーパーバンタム級4団体統一タイトルマッチは王者の井上尚弥(大橋)が中谷潤人(M.T)を判定で下した。WBC世界バンタム級タイトルマッチは王者の井上拓真(大橋)が4階級制覇王者の井岡一翔(志成)から2度のダウンを奪うなど大差の判定勝ち。初防衛に成功した。井岡は日本人男子初の5階級制覇には届かなかった。

 

 井上尚弥が、改めて自らをスペシャルワンだと証明した。アメリカ老舗ボクシング誌『ザ・リング』が制定するパウンド・フォー・パウンド(全階級通じての最強ランキング)で2位の井上尚弥と6位の中谷による直接対決。かつてはマイク・タイソン(アメリカ)が世界ヘビー級の3団体(WBA、WBC、IBF)統一戦を行なった“ビッグエッグ”で実現したメガマッチ。5万5000人もの観客が濃密な12ラウンドを見守った。

 

 セミファイナルまでの6試合は全て判定決着ということもあり、メインの開始は当初予定されていた21時を悠に過ぎていた。長渕剛の『神風特攻隊』が鳴り、黄金のガウンを纏った中谷が入場すると、会場のボルテージは上がった。挑戦者が約3分半かけて入場したのに対し、王者のそれは6分を過ぎた。

 

 井上尚弥の入場と言えば、テレビドラマ『GOOD LUCK!!』のメインテーマ曲『Departure』(佐藤直紀作曲)か、布袋寅泰の『バトル・オブ・モンスター』が定番だが、今回は前者を弦楽器隊による生演奏からスタートし、続いて布袋が登場というダブル演奏。黒ベースに金色が入ったリングコスチュームに身を包んだ井上尚弥の姿が現れると、一際会場が沸いた。

 

“世紀の一戦”のゴングは21時55分に鳴った。互いに様子見の立ち上がり。身長8cm、リーチで3cm上回るの中谷に対し、距離を詰めていくのは井上尚弥だったが不用意に飛び込むことはしない。手が出ていない時間も、張り詰めた緊張感は保ち続けた。2人だけにしか見えないパンチを打ち合っているような駆け引きをしてるようにも映った。

 

 積極的に動いているのは井上尚弥だった。ステップインで右を当てる。飛び込んできた瞬間、返しの左を狙っているのは明らかだったが、そこは井上尚弥だ。深追いはせず、カウンターの左に対しては上体を反らすスウェーでかわす。その高度なディフェンステクニックに会場から歓声が上がった。

 

 ペースを掴んでいたのは井上尚弥。手数、有効打ともに上回り、時折連打も混ぜた。中谷の左を警戒しつつ、着実にポイントを重ねた。反撃を仕掛けてきた中谷に決定打を許さなかった。

 

 序盤は明らかにポイントを与えてしまっていた中谷は、反転攻勢に出たかったが、井上尚弥のスピード、テクニックがそれを許してくれなかった。10ラウンドには偶然のバッティングで中谷が眉間付近をカット。最後まで主導権は握れなかった。

 

 試合終了のゴングが鳴らされた後、観客からは大きな拍手が送られた。至高の技術戦。勝者は明らかだったが、好勝負を繰り広げた両者に向けられたものだっただろう。レフェリー2人が116-112、残りの1人が115-113で王者を支持。3対0で井上尚弥が7度目の4団体統一王座を防衛(WBCとWBOは8度目)した。

 

 試合を終え、井上尚弥は「ホッとした」と率直な心境を明かす。

「パウンド・フォー・パウンドランキングに下から上がってきた選手。負けられないという気持ちがあり、今までとは全く違う重圧がありました。張り詰めた5月2日までだった」

 

 試合の組み立ては「プラン通り」とのこと。「そう出てくるなら今日の戦い方」という引き出しの多さが、モンスターのモンスターたる所以か。対戦した中谷が「ボクシングをつくっていくのがすごく上手だった」と振り返ったように、経験値の高さを見せつけたかたちだ。

 

「井上選手もタイミングをフェイントを入れながら取ってきた。駆け引きを楽しみながら戦っていました」と中谷。試合中、緊迫した場面の中、両者が笑顔を見せたシーンもあった。まさに2人だけの世界。井上尚弥は「脳のスタミナが削られた試合だった。それだけ張り詰めて戦った12ラウンド。お互い打って外しての技術戦。試合をしながら楽しかった」と語った。

 

 この日の興行は『THE DAY』と銘打たれ、サブタイトルは『やがて伝説と呼ばれる日。』だ。井上尚弥は「今日が伝説の日になったかどうかは、ちょっとわからない。やがてね。ただ僕のボクシング人生は今日がゴールではない。まだまだ伝説をつくっていけると思う」と前を見据えた。

 

 弟の拓真は、対日本人負けなしの井岡と対戦。序盤はスピードとパワーで上回る井上拓真が優位に立った。プレスをかけてきた井岡に対し、カウンターで合わせた。第2ラウンド、右のクロスからアッパー、左フック繰り出してダウンを奪った。第3ラウンドもカウンターの右アッパーが決まった。

 

 第4ラウンド終了後の公開採点で、1人がフルマークの40-34、2人が39-35と大きくリードすると、5ラウンド以降も井岡にペースを掴ませなかった。KO勝ちこそできなかったが、3対0の大差判定でほぼ完勝だった。

 

「張り詰めた12ラウンド。あっという間の時間。すごく楽しい戦いだった」と井上拓真。次戦は統一戦を希望するが、那須川天心(帝拳)との再戦の可能性もある。

「終わったばかりなんで何も考えたくないが、決まれば前回同様にしっかり倒すだけ」

 

(文╱杉浦泰介、写真╱大木雄貴)

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