第1211回 W杯“無敵艦隊”の砲撃耐え抜いたアフリカ小国
地球儀をクルリと回し、カボベルデという国の位置を、瞬時に指差せる者が世界中にどれだけいるだろう。
日本においては、2023年の秋、沖縄で行なわれたバスケットボールの男子W杯に出場し、日本と好勝負を演じたことで少しばかりの認知度を得た。
そのカボベルデはポルトガル語で「緑の岬」を意味する。アフリカ大陸の西、大西洋に浮かぶ島嶼国で、面積は滋賀県程度。人口は60万人弱。1975年まではポルトガルの植民地だった。
15日(現地時間)、米アトランタで行なわれたW杯初出場のカボベルデ対、欧州王者で2度目の優勝を目指すスペイン戦の結果を後で知って、自らの頬をつねった人は少なくないはずだ。
まさかのスコアレスドロー。同じ勝ち点1でも、アフリカの小国にとっては、ほとんど勝ったも同然のドロー。いやはや、初戦は何が起こるかわからない。
FIFAランキングはスペインの2位に対し、カボベルデは出場48カ国・地域中44番目の67位。スペインにとっては、格好のスパーリングパートナーかと思いきや、カボベルデはロープを背負ってもガードを解かず、一瞬のスキをついて反撃に転じたりもした。無名の漁船集団が“無敵艦隊”の砲撃を耐え抜き、白旗を掲げずに最後まで闘い抜く姿は、実に勇敢だった。
スーパーセーブを連発し、マン・オブ・ザ・マッチに選ばれたGKボジニャは、試合後「愛する国を代表できることは名誉であり、信じられないほどの努力が実を結んだ」と目に薄らと涙を浮かべて語った。
今大会からW杯の出場枠が32から48に増えた。アフリカは5から9.5に拡大し、9カ国が出場している。カボベルデはグループリーグを首位で通過して出場権を得たが、5枠なら微妙だった。
FIFAの拡大政策に対しては、当初、本大会の質の低下や最大試合数が7から8に増えることによる選手の消耗を懸念する声が多く、サッカーの本家意識の強いUEFAは乗り気ではなかった。だがFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長は、アジアとアフリカの枠を倍増させることで両連盟の支持を取り付け、今はそれを権力基盤にしている。
票はカネを生み、カネは票を生む。南米やアジア、アフリカを票田にしてFIFAを24年にわたって支配したブラジルのジョアン・アベランジェ氏と、欧州の利益代表でもあったレナート・ヨハンソン元欧州連盟会長の確執に端を発する「非欧州対欧州」の対立構造は今も続いている。
そうした舞台裏を知れば、権力闘争の帰結ともいえる拡大政策は無粋の極みであり、鼻白む。それでもチューリッヒの密室で演じられる政争を空疎なものにするだけの力が、現場にはある。それがサッカーのリアルだ。無意識のうちにカボベルデの戦いぶりに心を寄せ、ヴォジーニャの涙に目頭を熱くした自分がいた。W杯は、まだ始まったばかりである。
<この原稿は26年6月17日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>
