DSC09128

(写真:カップを掲げる堀江主将をはじめ、優勝を喜ぶパナソニックのメンバー)

 ラグビーのトップリーグプレーオフトーナメント「LIXIL CUP2016」決勝が東京・秩父宮ラグビー場で行われ、パナソニック・ワイルドナイツ(リーグ戦・グループA1位)が東芝ブレイブルーパス(同2位)を27-26で下した。パナソニックは、東芝以来9年ぶりとなるトップリーグ3連覇を達成した。前半は両チームが2トライ2ゴールずつ奪う拮抗した展開。パナソニックが終了間際にPGで3点を勝ち越した。後半に入るとパナソニックがPGと1トライ1ゴールでリードを広げた。東芝の反撃に遭い、1点差まで迫られたが、辛くも逃げ切った。パナソニックは大学選手権王者の帝京大学と31日、日本選手権(秩父宮)で対戦する。

 

 野武士軍団・パナソニックが、迫りくる“赤い壁”に耐え、現役最強チームを証明した。

 

 2連覇中のパナソニック、トップリーグ最多5度の優勝を誇る東芝。トップリーグ王者を決める一戦に会場を埋め尽くした。昨年12月のリーグ戦では17-17のドロー。熱戦は必至である。冬の寒空の下、秩父宮ラグビー場には2万4千人を超える観客が集まった。

 

 まず先手を奪ったのはパナソニックだ。前半3分、敵陣左深くへと攻め込むと、ラックからSH田中史朗が右へ展開。パスを受けたFL西原忠佑がインゴールへ飛び込んだ。正面やや左のコンバージョンキックもSOヘイデン・パーカーが着実に決め、7-0と幸先良くリードした。

 

DSC08739

(写真:日本代表のキャプテンを務めたリーチは攻守で躍動した)

 6年ぶりの王座奪還を目指す東芝も負けていない。7分、中央でボールを受けたFLリーチ・マイケルが巧みなステップで相手のスペースを突くと、FB笹倉康誉のタックルをかわす。インゴール目前でHO堀江翔太に掴まるが、そのまま引きずりながらもトライ。日本代表のキャプテンも務めた男がきっちりと仕事を果たす。

 

 コンバージョンはSH小川高廣が決め、同点に追いつくと、17分には東芝の十八番が発動する。左サイドのラインアウトからドライビングモール。ぐいぐい押し込んで距離を稼ぎ、最後はFL山本紘史が飛び込んだ。小川が再び決めて、セットプレーから東芝が逆転に成功した。

 

 一転して追いかけるかたちとなったパナソニックは、21分に左サイドを攻め込む。最後は田中が大外のWTB児玉健太郎がパスを送った。児玉は縦へ突破すると、リーチにタックルで止められる。そこから手を伸ばし、ボールをインゴールへと届かせた。一度はトライの判定となったが、テレビジョン・マッチ・オフィシャル(TMO)に諮られた。するとリーチのタックルを受けた後、児玉の足がタッチラインをかすめており、トライは取り消された。

 

 5点が失ったととることにもできるが、パナソニックはこれを嫌な流れにはしない。24分、ゴール目前に迫ったところで、田中が一度飛ばしパスをすると見せかけてパスをワンテンポ遅らせる。東芝の守備陣がつられる中、近場の堀江がぽっかり空いたスペースを突く。インゴールへ悠々と運ぶと、パーカーがコンバージョンを決め、14-14の同点に追いついた。

 

DSC08893

(写真:キック成功率10割のパーカーはプレーオフのMVPを獲得)

 その後もパナソニックは攻勢を加え、前半終了間際に相手のオフサイドを誘った。ゴールまで約30メートルの距離があったが、プレーオフでキック成功率100%を誇るパーカーの左足にすれば、朝飯前だった。パナソニックの3点リードで試合を折り返した。

 

 後半には入ってもパーカーの正確無比なキックで得点を重ねる。左サイドでゴールまでは約25メートル。ゴールを見つめると、そこからボールに視線を移す。ゆっくりと助走をとり、頭を下げたままボールを蹴り上げた。ゴールに一直線へと飛んでいき、アシスタントレフェリー2人が旗をあげる。20-14と更にリードを広げた。

 

 20分、東芝FBフランソワ・ステインが自陣から前へと蹴り出し、自らそのボールを狙っていった。ワンバウンドでボールを処理した田中がカウンターを仕掛ける。そのままスルスルと抜け出し、ゲインすると大外左の堀江へパス。堀江がさらに前へ運ぶ。倒れ込みながらCTBのJP・ピーターセンはつないだ。フリーのピーターセンはインゴール左へと飛び込むだけでよかった。パーカーがコンバージョンを決め、27-14とほぼダブルスコアとした。

 

 残り20分を切って、13点差。東芝の富岡鉄平ヘッドコーチ(HC)はHO湯原祐希、SO森田佳寿に代えて、HO森太志とWTBニコラス・クラスカを投入した。WTB廣瀬俊朗をSOへとシフトした。すると28分、中央で小川が右へと展開。ボールを受けた廣瀬が一拍置いて、スピードに乗ったクラスカへ繋いだ。クラスカは約25メートルを独走。そのままトライを奪った。小川がコンバージョンを決め、6点差へと詰め寄った。

 

 パナソニックはボールをキープしながら、時間を経過させていく。反則を犯し、相手ボールになった瞬間、後半の40分経過を告げるホーンがスタジアムに鳴り響いた。ラストワンプレー――。“赤い壁”が野武士軍団に迫ってくる。

 

 東芝は自陣右サイドのマイボールスクラムから左へ展開。まずCTBリチャード・カフイが突破し、引き付けてからステインへパスを送った。フリーでボールを受けたステインはインゴール手前まで左サイドを独走。このままトライを奪うかと思われたが、パナソニックの快速WTB北川智規が追いついて阻止した。そこでできたラックから中へ繋ぐ。カフイはキックパスを選択するが、味方は走り込んではいなかった。ボールから一番近い堀江がチェイスする。しかし、楕円球は一筋縄ではいかない。ワンバウンドしたボールは東芝を導くようにインゴール側へ弾む。急激な変化に堀江は足をとられる。その間に途中出場のWTB豊島翔平がボールを掴み、そのままインゴールへ飛び込んだ。

 

DSC09027

(写真:ステインのキックが外れた瞬間、歓喜に沸くパナソニックの選手たち)

 27-26――。赤いジャージが歓喜に沸き、青いジャージは茫然としている。パナソニックは1点差まで詰め寄られ、コンバージョンを決められれば逆転される。すべての命運を握るゴールキックを蹴るのはステイン。ゴールまで約23メートル。右足のキッカーには難しい右サイドの位置だった。

 

 ベンチに下がっていた両チームの背番号10は祈っていた。東芝の森田は「“とにかく入ってくれ”と、みんながフランソワ(・ステイン)の右足に願いを込めた」と振り返る。一方、パナソニックのパーカーは「あの時はナーバスだった。正直、ミスしてくれればいいと思った」と語った。

 

 視線を集めたステインのキックはゴール左に外れた。この瞬間、パナソニックの3連覇が決まり、青いジャージの野武士軍団がピッチで喜びを分かち合った。パナソニックのロビー・ディーンズHCが「締めくくりにふさわしい決勝戦だった。まさにラグビーのすべての要素が詰まっていた」と試合を評した。寒さを吹き飛ばすような熱戦はパナソニックに軍配が上がった。3年連続4度目の優勝。来シーズンは史上初の4連覇、東芝に並ぶトップリーグ最多の優勝回数(5回)を狙う。

 

(文・写真/杉浦泰介)