15日、プロバスケットボール・bjリーグは都内で会見を開き、大阪エヴェッサの米国人選手リン・ワシントン容疑者が13日に大麻取締法違反営利目的輸入の疑いで逮捕された件についての現状報告とリーグの今後の対策として、緊急代表者会議で薬物問題対策委員会を設置することを決定したと発表した。ワシントン容疑者の妻も同様の容疑で2月下旬に逮捕されているが、夫婦ともにこの件への関与を否定している。現時点でbjリーグ、大阪からワシントン容疑者への具体的な処分・対応はなく、対策委員会が大阪の事実関係の調査報告を受けた後、リーグとしての対処、方針を決定する見通しだ。
(写真:沈痛な面持ちで会見場に現れた河内コミッショナー)
 日本バスケットボール界に激震が走った――。13日、大阪エヴェッサのワシントンが米国から大麻を密輸入したとして、逮捕されたのだ。発端は2月23日にワシントン容疑者の妻が、昨年11月に米国から乾燥大麻約1キロを密輸したとして逮捕されていたことにある。これにより、ワシントン容疑者も任意の事情聴取を受けたのだ。ワシントン容疑者は当時から事件への関与を否認し、任意で応じた薬物検査も陰性反応だった。違法薬物への関与について自身が潔白である旨の誓約書をチームに提出し、この時は拘留されることはなかった。しかし13日午前、大麻を密輸入したとの容疑で逮捕された。調べに対し、現在は2人とも容疑を否認している。ただ、ワシントン容疑者は米国で医療用大麻販売店の経営の関与について供述しており、大阪府警の調べによると、過去にも密輸をした疑いがあると見られている。

 ワシントン容疑者は、まさにbjリーグの“顔”といってもいい存在だ。05年のチーム設立からエースとして活躍。2メートルの長身をいかしたダイナミックなプレーでファンを魅了し、大阪を初代チャンピオンに導いた。さらにその後の3連覇(05〜07年度)に貢献し、05、07年度にはMVPに輝いている。今年1月のオールスターゲームでは2年連続でのMVPを獲得したばかりだった。

「パートナー企業、バスケットボールの関係者、バスケットボールを心から愛していただいている全国のブースターの皆様にご迷惑をおかけしたことを深くお詫びしたい」
 河内敏光コミッショナーはこのように今回の件について陳謝した。実はワシントン容疑者を日本に呼んだのは、当時、アルビレックス新潟の代表を務めていた河内コミッショナー自身だった。それだけに「(素行に)問題はまったくなかった。まさかというのが率直の気持ち」とショックを隠し切れない様子だった。

 会見では、15日に19チームの最高責任者を集めて緊急代表者会議を開き、外部有識者をメンバーとする薬物問題対策委員会を設置したことを発表した。対策委員会はコミッショナーの諮問機関とし、速やかに事件の調査、検証、対策、実施を行う。委員会は医師を含む5人のメンバーで構成され、委員長には水戸重之(TMI総合法律事務所パートナー弁護士)が就任した。
 ワシントン容疑者について水戸委員長は「拘留期間が終わって、起訴かどうかの段階で(処分・対応の)判断材料が揃うと見ている」と話すにとどまり、具体的な処分について言及はなかった。また、ワシントン容疑者の事件だけにかかわらず、これを機会に違法薬物関連で摘発された選手の処分やドーピング(禁止薬物使用)検査のルール設定などを話し合う方針であることを示した。

 当面の対策としては、16日24時までに、リーグ19チームの全所属選手に薬物検査の結果と誓約書の提出を義務づけた。薬物検査はチームドクターなどの医師立会いのもと、尿検査を行う。また誓約書は、大麻を含む違法薬物について、使用、所持、売買、密輸を行っていないことを誓約するものであり、現時点では全選手が検査を受ける予定だという。検査結果は薬物対策委員会への報告後、精密検査等のすべての検査が終了した時点で改めて公表する。

 また今回は、リーグとチームの情報共有についての問題も浮上した。2月下旬に妻が逮捕され、同時にワシントン容疑者も事情聴取と薬物検査を受けた。しかし、大阪は13日に同容疑者が逮捕されるまでリーグに一切報告していなかった。大阪は警察当局から調査内容の公表を控えるようにとの指導を受けていたことを理由にしている。これを受け、「対応の内容や検査結果に関しては、すべて公表し、信頼回復に努めていく」と河内コミッショナー。今回の事件を機に、改めてリーグとチームの意思疎通の強化が図られることになりそうだ。