マーリンズで活躍するイチロー選手が、15日(日本時間16日)の対パドレス戦で日米通算4257安打を放ちました。これはピート・ローズが保持していたメジャー通算4256安打の最多安打記録を日米通算ではありますが上回るものです。42歳になっても衰えを感じさせないイチロー選手。この偉業達成は、彼のあくなき向上心と日々の積み重ねの賜物でしょう。

 

 ローズのヒット数とイチロー選手のヒット数とでは、日米では試合数が違いますから、単純には比較はできないでしょう。「早い時期にイチローがアメリカに来ていたら……」と言う人もいますが、彼が積み重ねてきた記録に変わりはありません。メジャーの記録としては認められないとしても、どの世界でもヒットを積み重ねてきたことは認めてもらってもいいんじゃないでしょうか。

 

 連日、メディアでは“記録更新”のニュースが大きく報じられていましたが、僕は4257安打目のツーベースヒットよりも、ローズとタイ記録に並んだ内野安打が印象に残っています。

 

 1打席目。イチロー選手が放った打球は一塁線上に転がるボテボテのゴロでした。捕手のデレク・ノリスが捕球してすぐに一塁へ送球しましたが、イチロー選手はすでに一塁に到達していてセーフ。普通の選手であれば、あの打球は諦めてキャッチャーゴロですよ。しかし、それをセーフにするところがイチロー選手の凄いところです。脚力が光った4256本目のヒットはイチロー選手の真骨頂とも言えます。

 

 普通はイチロー選手くらいの年齢になれば“40歳を過ぎているから無理はしない”と、リスクを冒すようなプレーは嫌がりますし、綺麗なヒットを打ちたがります。しかし、イチロー選手は形にとらわれず、どんな場合でもセーフに結びつけようとしている。このプレースタイルが42歳になった今でもメジャーの第一線で活躍できる理由です­­。

 

 かつて、本人と話したときに­「全てのことができないと僕はダメなんです」と­言っていましたが、­­ 42歳になって全てのことをできる選手はなかなかいません。やはり、年齢とともに脚力や視力などが落ちてくるので、身体のコンディションを維持するのは大変です。それをできて­いるイチロー選手は天才というよりも、もはや“変態”と言うべきでしょうか(笑)。

 

日米5000本安打の可能性

 今季は限られた出場機会の中で、打率.350、出塁率.422(6月23日現在)と好成績を収めています。昨年、現地でイチロー選手のプレーを見たときはトップの位置が作れていませんでしたが、今年はしっかりとトップの位置を作って、最後にバットが出てきています。それだけコンディションが良いということなので、彼にはまだまだやってくれそうな雰囲気を感じます。

 

 イチロー選手はメジャー通算3000安打までは残り17本に迫っています。出場機会にもよりますが、恐らく来月頭には達成するでしょう。しかし、僕は更にその先を目指して欲しいと思っています。

 

 これまでイチロー選手が放った4261安打のうち、日本で放ったヒット数は1278本、メジャーで放ったヒットは2983本です。日本では1300安打にも到達していないので、いつか日本に戻ってきてNPB通算2000安打を達成して欲しい。彼は「50歳までプレーヤーとして頑張りたい」と言っているので、その可能性はゼロではありません。

 

 僕はイチロー選手が世界一のプレーヤーだと思っているので、MLB通算3000安打とNPB通算2000本安打の日米通算5000安打という前人未踏の記録を達成する瞬間を見てみたいですね。

 

image佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。


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