高校3年時、遠藤一星はプロ野球選手になることだけを考え、自信をもって志望届を提出した。だが、最後まで彼の名前が呼ばれることはなかった。その時、プロの世界を甘く見ていた自分に気づかされたという。その後、中央大、東京ガスへ進むも、遠藤の目標はプロではなかった。そんな彼に転機が訪れたのは、社会人3年目の2013年夏。恩師からの言葉をきっかけに、打撃開眼の道へと突き進む。そして、プロへの扉が開かれることになったのだ。
 新人王・石川との対戦が楽しみ

―― ドラフトで指名された時の気持ちは?
遠藤: ちょっと順位が後ろだったので、不安でドキドキしていました。呼ばれた時は、素直に嬉しかったです。順位は予想よりも下でしたが、入団するのに何の迷いもありませんでした。

―― プロになるんだと実感したのは?
遠藤: ドラフトで名前を呼ばれた時は、嬉しいとは思いましたが、正直実感はわかなかったですね。仮契約で契約書にサインをしている時に、ちょっと気持ちが高揚してきて、「あぁ、プロになるんだな。これから始まるんだな」と、ようやく実感しました。

―― 一番の売り、強みとは?
遠藤: 持ち味である足の速さをいかした、攻守ともにアグレッシブなプレーを売りにしていきたいと思っています。

―― プロでの目標は?
遠藤: 個人成績では明確な数字は考えていませんが、開幕一軍を目指します。まずはそこからスタートですね。シーズンは長いので、いろいろなことがあると思いますが、常に一軍の試合に出続けて、最終的にはチームの優勝のために力になれたらと思っています。優勝が決まる瞬間、フィールドに立っているということが、今の僕のプロでの目標です。

―― プロで対戦したピッチャーは?
遠藤: リーグは違いますが、千葉ロッテの石川歩です。東京ガスでは同期入社で3年間一緒にプレーしました。石川がプロに入るまでは、ずっと彼の後ろを守っていたので、どれだけすごいピッチャーかというのは誰よりもわかっています。それだけに対戦するのが楽しみです。

―― 石川投手は昨季、新人王を獲得しました。プロでもあれだけ勝てる要因とは?
遠藤: もちろん、球自体が素晴らしいというのもありますが、負けん気が強いところですね。普段はヘラヘラしていて(笑)、あまり表情には出さないタイプですが、マウンドに立つと、特にピンチになった時に、もうひとつギアを上げることができるピッチャーです。ピンチになるとよくマウンドに行っていたのですが、そうすると他のピッチャーには感じませんが、石川と言葉を交わすと「大丈夫だ」という安心感が生まれるんです。

―― その石川投手と対戦した場合、どんなボールをどう打ちたいですか?
遠藤: 絶対に初球はカーブから入ってくると思います。次に真っ直ぐを見せて、シンカーとか、おそらくまともには真っ直ぐを投げてこないと思いますね。ちょっとふざけた感じで勝負しにくると思うので、入りの球を、ピッチャーの真横に打ってやろうかなと思っています(笑)。

 意識は体幹に、かたちは自然体に

―― 走攻守三拍子そろった選手として期待されていますが、まず守備でのこだわりは?
遠藤: 自然体ですね。もちろん基礎も大事だということは重々わかっていますが、そこにこだわりすぎず、身体が反応したままボールをさばきにいく。自分が反応したままというのが、一番素早くさばけるし、ミスも少ない。守備範囲も広くいけるんです。

―― 自然体でさばくためのコツは?
遠藤: 構えている時の意識は体幹や内転筋に置いておきます。あとはボールがピッチャーから離れて、バットに当たる瞬間に動き出すというイメージです。

―― 構えている際に、体幹や内転筋に意識を置く理由は?
遠藤: 体幹の力が抜けると、力が半減するんです。例えば守備では、最後の球際の時に、フッと抜けると、打球に届ききらなかったり、厳しい体勢で投げる時に、うまく力が伝わらなかったり……そういうことが多々あったので、今は構えている時から意識するようにしています。

―― 意識するようになったきっかけは?
遠藤: 社会人2年目、2012年の都市対抗の予選での敗戦です。相手は明治安田生命で、リードされての試合終盤、ランナー三塁の場面で三遊間のゴロを厳しい体勢で捕ったんです。でも、手先で投げざるを得なくて、それがセーフになってしまった。もっとスローイングの時に、グッと力を入れていたら、アウトのタイミングだったと思うんです。既にリードを許してはいましたが、それでもその試合では大きな失点になったなと。相手に完全に流れを与えてしまいましたから。それがきっかけですね。はじめは足だけを意識していたのですが、足だけ動かしても、僕の場合はあまりうまくフィットしなかったんです。それでいろいろと試行錯誤した結果、体幹から内転筋の部分を意識した時に、「あ、これかな」というものをつかんだんです。

―― 守備で参考にしたプロの選手はいますか?
遠藤: 井端弘和さん(巨人)や鳥谷敬さん(阪神)ですね。お二人のプレーの映像を何度も見て参考にしています。鳥谷さんは、球際の強さが格別です。そこまでの動きに注意しながら見ています。井端さんはボールの入り方を参考にしています。よく野球教室では「左足の前で捕りなさい」と言われるのですが、井端さんは逆で、少し右足寄りに捕るんです。おそらくパッと右ヒジを引いて、スローイングに入れるからかなと。

―― 遠藤選手自身はどこで捕球しているのですか?
遠藤: 左足の前で捕ると、イレギュラーした時に左足が邪魔をして、対応が狭められるんです。だから、僕は横から打球に入っていって、最終的に捕球する際は両肩とボールが正三角形の状態ですね。

―― 打球に対して横から入るのはなぜ?
遠藤: 横からだと打球の軌道も見えやすいですし、なおかつファーストに投げるまでの体重移動がしやすいんです。もちろん、これはショートでの話です。例えば、社会人の時はサードを守ることもあったのですが、サードでは打球の横に移動するなんていう時間はないので、まずはボールを捕りにいくんです。そこから足を運んで投げると。

 フォーム改造で打撃開眼

―― 社会人4年目の14年、都市対抗では打率3割6分4厘という好成績を残しています。予選でも2本のホームランを放ち、9月のアジア大会では主軸を任されました。打撃好調の要因は?
遠藤: その前の年の夏、都市対抗の予選前に、試合中に死球を受けたんです。その影響で本戦でも満足にプレーできないまま終わってしまいました。その後、少し時間があったので、ふと「何かを変えようかな」と思ったんです。入社して2年半、満足のいく成績を挙げることができなかったので、何か思い切って変えてみようと。それで、まずはもともと少し開く癖があったので、「それだったら最初から開いてみよう」と思って、前の右足を引いてオープンスタンスに変えてみたんです。そしたら、ボールが見やすくなりました。それで次にインパクトのポイントをボール1個中に入れたり、前で打ったりと、試行錯誤していくうちに、「あ、ここでのバットの出方がしっくりくるな」というポイントをつかみました。

―― インパクトの瞬間は、どこを意識しているのでしょう?
遠藤: 股関節です。バットを構えて足を上げる時に、左の股関節にしっくりとカチッとはまる感覚というのが見つかったんです。そこから振り出していって、右足をついて徐々に体重移動するんですけど、その時も股関節にカチッとはまる感覚があるんです。それがインパクトのポイントですね。

―― バッティングを思い切って変えたことで、翌シーズンに結果が出たと。
遠藤: はい。特に印象的だったのは、その年の10月にあった日本選手権初戦でのサヨナラホームランです。自分の中で一番きれいに振り抜けたなと。あそこまで力を入れずにきれいに振り抜けたのは、初めてでしたね。打った感触がなくて、勝手にボールが飛んで行ったという感じでした。「あ、これだな」と思いましたね。

 気づかされた“本気度不足”

―― 高校時代は出したプロ志望届を、大学時代には出しませんでした。
遠藤: 高校の時は、プロに行くということしか考えていなかったんです。若かったので、根拠のない自信がありましたね。でも、結局指名されず、大学に進学したのですが、大学4年間はパッとしなかったので、これではプロは無理だなと。高校時代にプロはそんなに甘くないということを味わいましたからね。それで拾っていただいたのが東京ガスだったんです。

―― プロが本格的な目標となったのは?
遠藤: 特にプロになるという目標設定はしていなかったんです。入社した時の目標は、アマチュアの日本代表に入って主軸を打つことでした。それをようやく達成したのが4年目のアジア大会。それが終わって、次の目標を考える暇もなく、1カ月後にはドラフト会議でした。

―― 高卒ではなく、大学、社会人を経てきたらこそ得たものとは?
遠藤: もちろん技術的には当時より断然成長しましたが、やはり社会人までくると人としての部分が大きかったと思います。高校時代は単に野球をやっていただけで、他のことに関しては疎かにしていた部分が少なくなかったと思うんです。でも、大学、社会人を経て、いろいろな方々と接し、社会人では会社員としても勤めたことで、人間として成長できたかなと。

―― 高校時代と一番変化したのは?
遠藤: コミュニケーション力ですね。高校時代は本当にひどかったので(笑)。言葉づかいも態度も悪かったと思うんです。東京ガスの菊池壮光監督には常々「野球人の前に社会人であれ」と言われてきました。菊池監督から学んだことは大きかったですね。

―― 自分が変わる転機はありましたか?
遠藤: よく菊池監督には「取り組む姿勢が悪い」と言われていたんです。もちろん、自分ではやっているつもりでした。でも「オレには何も伝わってこない」と。監督は怒鳴ることはせず、冷静に淡々と言うんです。その方が心に突き刺さるんですよね(笑)。それで3年目の夏に「今の自分はどうだ?」と聞かれたことがあったんです。自分では短期、中期の計画をたててやっていたつもりだったのですが、その計画にまったく追いついていなかった時期で、「なかなか達成できなくて、モヤモヤしています」と言いました。そしたら「何でこうなっていると思う?」というところから、いろいろと話をしていく中で、どんどん自分のダメな部分が明確になっていったんです。

―― そこで見えてきた課題とは?
遠藤: 本気度ですね。自分ではやっているつもりでも、周りにそれが感じられないのであれば、やっぱりそれは十分ではないということ。それまでは自分だけのものさしではかっていただけにすぎなかったことに気づいて、どんどん視野が広がっていくような感じがしました。それで「何か変えないと」と思って、打撃フォームの改造にも取り組んだんです。

―― 最後に、大事にしている言葉を教えてください。
遠藤: 「感謝」です。ここまで野球をさせてくれた家族もそうですし、これだけの環境を与えてくれた会社の方々、そして熱心に指導してくれた監督やコーチ、みんなに感謝しています。特に、東京ガスで菊池監督に出会えたことはとても大きかったと思います。入社からプロに入るまで4年間もかかりましたが、僕の中では決して無駄な遠回りではなかったと思っています。

遠藤一星(えんどう・いっせい)
1989年3月23日、東京都生まれ。小学1年から野球を始め、中学時代は川崎中央シニアに所属した。駒場学園高では3年夏に東東京大会ベスト4進出。中央大では1年春からベンチ入り。東京ガスでは1年目からレギュラーとして活躍し、4年目の2014年にはアジア大会で主軸を打つ打者へと成長した。180センチ、75キロ。右投左打。

(聞き手・斎藤寿子)

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