泣くべきか。怒るべきか。はたまた笑うべきか。

 森会長の発言。アウト。完全にアウト。事ここにいたっては、残る二択は「続投か辞任か」ではなく「辞任か更迭か」になる。というか、損なわれたイメージの改善には「辞任の申し入れを拒否しての更迭」しかない。

 

 息子がメソメソしていると、つい「男のくせに」と思ってしまうわたしは、ジェンダー平等の劣等生。なので、笑っていた、黙認したとその場にいた方々を非難する資格はない。ただ、森会長の発言は、女性だけでなく、いろんなものを否定してしまっている。

 

 会議は長くなってはいかんのか? わきまえないといけない? なるほど、森さんは国際会議における日本人の「3S(スマイル・サイレンス・スリープ)」を肯定……というか、奨励なさっているわけですね。はあ。

 

 IOCの変節には笑った。当初は「謝罪したので問題なし」の立場だったのに、突如として豹変。いや、実は感服もしていたのですよ。さすが弁護士の多いIOC。論理はブレてないなと。

 

 だって、森さんの発言は大問題ではあるけれど、所詮は失言、暴言の類。ボランティアを消耗品扱いしたとしか思えない発言に比べると、まあ冗談の匂いもしないではない。そこを問題視するなら深刻な人権侵害を世界から指摘されながら頰っかむりを決め込む国に、21世紀に入ってから2度も五輪開催の権利を与えたこととの整合性が取れなくなってしまうではないですか。

 

 ところが、騒ぎが日本を超えて欧米まで広がってくると、一夜にして態度をコロリ。変わり身の速さ、光速のごとし。信念より保身。いや、勉強になります。

 

 あと、ジェンダー平等のために真っ先に手をあげた各国大使館の方々や、「黙っていることは同意したことと同じ」と言って非難の波に乗った方々、実に素晴らしいと思いますので、今後はぜひとも、香港やウイグルの人たちの人権にも思いを馳せていただきたい。でないと、IOCと同じで単なるダブスタですよ。

 

 興味深いのは、やれ放射能五輪だの旭日旗が問題だのと、東京五輪をディスることに血道をあげてきた隣国が、この森発言についてはまるで無反応なこと。ははあ、本気で東京五輪を利用して、同胞との関係を好転させたかったわけですね。そのためなら、日本の大失策にも目をつぶるのですね。本来だったらここぞとばかりに大喧伝したいところでしょうに。ご愁傷様です。

 

 というか、何より複雑な気分にさせられるのは、個人の資質とは関係なく、性別というレッテルですべてをくくってしまったからこそ問題だった森さんの発言を、同じ理屈で非難する人が少なくないこと。老害? 老人は全員愚かだとでも? あちこちで散見される「我こそはジェンダー平等の守護神」といわんばかりな物言いにもゲンナリ。森さんの問題を日本の問題にしたがる姿勢って、個人の資質を女性全体にすり替えるのと基本的に同じだと思うのですが。

 

 ま、かくいうわたしも、中国や韓国にレッテルを貼ろうとしている、と言われれば言葉に詰まるわけで。なんだが、多くの人をハッピーにするための五輪が、人間の、自分の暗部をさらけ出すイベントに変質し始めたようで、これはもう、笑うしかない、やっぱり。

 

<この原稿は21年2月11日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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