5位に終わった昨シーズンの広島カープ。低迷の最大の要因はブルペンの不振だった。

 

 

<この原稿は2021年4月25日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

 

 セーブ数21は東京ヤクルトと並んでリーグワーストタイ。ホールド数56はリーグ単独ワーストだった。

 

 締めくくり役を期待されたドミニカ人のヘロニモ・フランスアがコンディション不良で出遅れ、急遽、クローザーに指名されたのが「南アフリカ出身初のMLB投手」というフレコミのテイラー・スコット。

 

 だが、この新外国人は“出れば打たれ”の繰り返しで、結局、7試合に登板して防御率15.75。セーブもホールドも、ひとつも記録できないままシーズンを終えた。

 

 今シーズン、3年ぶりのV奪回を狙う広島にとって、リリーフ陣のテコ入れは焦眉の急だった。わけてもクローザーの固定化はマストである。

 

 誰が適任か。実績だけなら左腕のフランスアだが、3月に国内で右ヒザの手術を受け、復帰が遅れている。

 

 そこで佐々岡真司監督が白羽の矢を立てたのが、トヨタ自動車から入団したドラフト1位ルーキーの栗林良吏だ。

 

 佐々岡監督、指名直後は、10勝(3敗)を記録し、2020年の新人王に輝いた森下暢仁の名前をあげ、「同等の活躍をしてくれると思う」と先発での起用を示唆していた。

 

 しかし、先述したようにフランスアが手術を受けたことで、代役を探さなくてはならなくなった。

 

 クローザーには安定した制球力に加え、三振を取る能力が求められる。幸い、栗林にはマックス153キロのストレートに加え、切れ味鋭いフォークボールがある。ランナーを出してもカットボールやスライダーで併殺打を打たせる技術も持ち合わせている。総合力で栗林以上の候補はいなかったというのが真相だろう。

 

 その栗林、3月27日、本拠地での中日戦で初登板初セーブをマークした。4対1と3点リードの9回裏に登板し、京田陽太をセカンドゴロ、木下拓哉を投ゴロ、根尾昂を三振に切ってとった。全く危なげのない内容でわずか10球で仕事を終わらせた。

 

 ちなみに初登板初セーブは、球団では通算165セーブをマークした永川勝浩以来の慶事だった。

 

 4月6日現在、5試合に登板し、早くも3セーブ。防御率は0.00だ。

「1年後に僕をクローザーにして良かったと言ってもらえるように頑張りたい」

 

 栗林は、そう抱負を述べている。

 

 過去、ルーキーイヤーで30セーブ以上をあげたのは1990年の与田剛(中日=31セーブ)と2015年の山﨑康晃(横浜DeNA=37セーブ)の2人だけ。

 

 目下の栗林のパフォーマンスを見ていると、故障さえしなければ、3人目の大台達成も不可能ではないように思えてくる。

 

 今シーズンは新型コロナウイルスの影響で、公式戦の9回打ち切り、延長なしが決定している。監督にしてみれば予定が立てやすいし、選手からすれば準備がしやすい。その意味では故障のリスクも少ないと言える。新人王も視野に入れるコイの新守護神である。

 


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