ことスポーツのことなら、何でも知っているのではないか。そう思わせたのがラグビー前日本代表ヘッドコーチ(HC)で、現在はイングランドを指揮しているエディー・ジョーンズである。

 

 その博覧強記ぶりに驚かされたのは一度や二度ではない。「昨季(10-11シーズン)のチャンピオンズリーグ決勝でFCバルセロナのMFシャビ・エルナンデスが何回パスしたか、ご存知でしょうか?」。いきなり、そう問われて絶句した。片目をつぶってエディー先生は答えた。「136回です。そのうち124回がコンプリート(完璧)。これに対しウチ(サンゴリアス)のSH日和佐篤の、1試合でのパス回数は? 大体で結構です」「……」「124回です。そのうち121回に成功しました。ウチが目指しているのはラグビー界のバルセロナですから」

 

 間を置かず話題はメジャーリーグに飛ぶ。「今季(11年)のマリアーノ・リベラ(ヤンキース)のセーブ数は?」。これは知っていた。「44ですね」「そうです。ヤンキースの最大の強みは42歳のフィニッシャーがいること。ウチには38歳のSHジョージ・グレーガンがいます。彼の仕事は最後の20分間をコントロールすることでした」

 

 リーグワン初代MVPに、優勝した埼玉のHO堀江翔太が選ばれた。レギュラーシーズンは不戦敗を除く14試合に出場したが、先発は1試合のみ。そのほとんどが坂手淳史との交代出場だった。

 

 リザーブのMVPはトップリーグでも一度もなかった。時代は変わったのだ。いや、堀江が時代を変えたのだ。

 

 今季、埼玉は前半にリードを許した試合が5つあったが、そのうち4つが堀江投入後に逆転した。36歳の堀江はゲームチェンジャーであると同時にゲームフィニッシャーでもあったのだ。野球でいえばクローザーだ。

 

 3月19日のBR東京戦では22対12の後半19分、本職のHOではなくFLとして投入された。堀江によれば「覚えていないくらい久しぶり」だったにも関わらず、本職顔負けのプレーを披露した。試合後は「3列での起用は、今週の試合メンバーを見ていて“あるな”と思い、準備していた」と涼しい顔だった。

 

 HCを将棋の指し手とするならば、駒台に置いていて、これほど頼りになる駒はないだろう。いつ、どの局面で打つか。それは23年W杯フランス大会で、ベスト8以上を目指す代表においても同様だと思われる。

 

<この原稿は22年6月1日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


◎バックナンバーはこちらから