6月末から8月中旬にかけて、9連勝、5連勝と連勝を重ね、チームは絶好調でした。そして8月11日にはついに当時の首位・富山サンダーバーズとのゲーム差が1.5にまで詰め寄りました。しかし、8月中旬以降は負けが込み、優勝争いから脱落してしまいました。現在(10月8日)は65試合を終えて30勝29敗6分で3位。首位・石川ミリオンスターズとのゲーム差は7.0です。
 島田直也コーチが当コーナーで登場した際(8月14日付)、「逆転優勝へのカギ」と挙げていたエースの給前信吾(横浜商大高出身)は、残念ながら未だに本来のピッチングを取り戻すことができていません。相変わらず、課題である四球を克服できていません。どうしてもボールが先行して四球を与え、自らピンチを招いてしまうのです。

 7月20日以来、約1カ月半ぶりに先発登板した9月8日の富山戦では、初回から3イニング連続で先頭打者に四球を与えました。結局5回までに7つの四球を与え、1失点ながら負け投手となりました。このように四球で崩した試合が、今シーズンはいくつもありました。

 本人には何度も言っているのですが、たとえ打たれても、まずは勝負しにいくことが重要なのです。打たれれば、自然と「抑えるためには、どうすればいいのか」ということを考えることができます。これを繰り返すことによって、自分なりのピッチングを覚えていくのです。ところが、四球ばかりを与えていては勝負になっていないわけですから、自分のピッチングを確かめることさえできない。つまり、何の進歩も得られません。

 給前はリーグ一のスピードを誇る投手ですから、私も大きな期待を寄せています。これまでもいろいろとアドバイスをしたり、トレーニングをさせてきました。時には厳しい言葉をぶつけたこともあります。でも、精神的なものが大きく影響している四球癖は正直、他人がいくら指導してもダメなのです。自分自身で壁を打ち破るほかありません。

 もちろん、本人もそのことを重々わかっていますから、一生懸命に努力はしています。しかし、私に言わせればまだまだ足りません。これは給前だけでなく選手全員に言っていることですが、この北信越BCリーグのレベルでこれだけの成績しか残せないということは、当然NPBでは通用するはずがありません。彼らの目標はあくまでもNPBで活躍すること。そのためには、並々ならぬ努力が必要とされるのです。

 私は高校卒業後、社会人の日本鋼管を経て25歳の年にドラフト指名を受けて日本ハムに入団しました。社会人時代の私は、寝ても覚めても頭にあるのは野球のことばかり。「どうしたらプロに行けるのか」。そのことばかりを考え、死に物狂いで練習に励みました。
 選手の大半がまだ20代前半。社会人時代の私と同じ年齢です。自分の経験から言っても、彼らにはまだまだ時間はあるし、チャンスはいくらでもある。ですから、もっと野球に対してがむしゃらになってほしい。「うまくなりたい」という気持ちを強くもち、それを前面に出してほしい。今の選手たちからはそうした姿勢がいまひとつ伝わってこないため、監督としては歯痒くて仕方ありません。

 私は、2008年も監督を続行することが決定しました。2年目となる来シーズンは、今シーズン以上に厳しさを求めていかなかければならないと考えています。もちろん、今いる選手が全員、来シーズンもこのチームに残れるわけではありません。しかし残り7試合、一人ひとりが何か一つでも得られるように「一球」「ワンプレー」を大事に戦ってもらいたいと思っています。


木田勇(きだ・いさむ)プロフィール>: 信濃グランセローズ監督
神奈川県出身。横浜商大高、日本鋼管を経て、80年にドラフト1位で日本ハムに入団。1年目に22勝8敗4セーブ、228奪三振、防御率2.28の成績を残し、新人王ならびにMVPに輝いた。その後、大洋(現横浜)、中日に移籍し、90年に引退。引退後は解説者、評論家として活躍。今季より信濃グランセローズ監督に就任し、来季も続行することが決定した。


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