7月18日開幕の都市対抗野球に出場する32チームが出揃った。個人的に注目しているチームがある。3年ぶり2回目出場の宮崎梅田学園(宮崎市)だ。選手たちのほとんどは自動車教習所の教官である。

 

 梅田條尾社長と知り合ったのは、宮崎梅田学園が都市対抗に初出場する、ほんの少し前だ。宮崎県勢の都市対抗野球出場は初、自動車学校を母体とするチームの同大会出場も初。何を目的に硬式野球部をつくったのか。そこに興味があった。

 

「交通安全を全国にアピールするためです」。あまりにも真っすぐな物言いに少々、戸惑った覚えがある。梅田は続けた。「元々ウチは中学生の野球大会を主催していました。その大会の3カ月後です。参加していた笹森郁也君という中学1年生が交通事故で亡くなってしまった。それが私には大変ショックでした。どうすれば、こうした不幸な事故を減らせるのか。私ができるのは、野球を通じて交通安全の意識を、より多くの人に浸透させること。それには大きな大会に出る必要があった。いつかは東京ドームに“交通安全”の横断幕を掲げたい。以来、それが私の目標となったのです」

 

 今月4日に熊本市のリブワーク藤崎台で行われた九州地区第2代表決定戦、接戦の末にJR九州(北九州市)を下し東京行きの切符を手に入れた。宮崎梅田学園のベンチには郁也君のネーム入りのユニホームが置かれていた。梅田は言う。「ウチのチームは、いつも彼とともにあるんです」

 

 チームは仕事と野球の両立を目指している。学生の春休みと重なる2、3月は自動車学校にとっては繁忙期。梅田によると「今日はAグループ、明日はBグループ」とチームを2班に分け、交互に練習を行う。限られた時間を、どう有効に使うか。工夫と工面が選手たちにたくましさをもたらした。

 

 専用の練習グラウンドもない。「河川敷で練習している姿を見ていると、本当に選手たちには申し訳ないと思います。恵まれない環境ながらも、選手たちはグチひとつこぼさない。そんな選手たちは、ウチのような200人あまりの小さな会社にとっては誇りであり、宝でもあるんです」

 

 東京ドームの始球式では、息子の死後ずっと交通安全運動に携わってきた郁也君の父・義幸さんに登板してもらう計画を立てている。「あくまでも願うのは交通安全。こんな特色のあるチームが社会人野球の中にひとつくらいあってもいいでしょう」。多様性の時代を象徴するチームに、ささやかなエールを送りたい。

 

<この原稿は22年6月15日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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