飲食店に「アルゴリズム」なる計算法を用いて点数をつける「食べログ」というグルメサイトがあることは知っているが、一切見たことがない。

 

 理由はいたって簡単。うまいか、うまくないか。リーズナブルか否かは、あくまでも自分の舌が決めるものであって、他人が決めるものではない。そう考えているからだ。そもそも味覚とは相対評価によって決定されるものなのか。

 

 アルゴリズムの不当な変更が評価点の減点につながり、売り上げが減少したとして飲食店の運営会社がサイト運営会社に損害賠償などを求めた訴訟の判決が16日に東京地裁であり、裁判官は「優越的地位の乱用」を禁じた独占禁止法に違反すると判断した。

 

 冒頭で述べたように、点数そのものに興味のない私にはピンとこない話だが、月間の利用者が8000万人を超えると聞いて驚いた。ある日突然、評価点を下げられた飲食店側にとって、これは確かに死活問題だ。

 

 反アルゴリズム派の私の目に、プロ野球のスカウトの仕事は「客観」よりも「主観」が優先される最後の聖域のように映る。「いや、最近はそうでもないんですよ。データ重視ですから」という声も聞くが、意見が分かれた場合は“押しの強さ”や“勘の鋭さ”がまだモノを言う。

 

 90年代、ヤクルトは野村克也監督の下、黄金期を迎えるが、裏方としてチームづくりに貢献したスカウトの片岡宏雄さんは「選手選びはデパートのネクタイ選びと一緒。迷った時は、最初に目に入った方をとる」と語っていた。「目に入るということは、それだけ訴えかけるものがあるということ。この選手はここが悪い、あそこに問題がある、と重箱の隅をつつき始めたら、だいたい“負け戦”やね」

 

 今季、ノーヒットノーラン(完全試合を含む)を達成した4人の投手のうち佐々木朗希(千葉ロッテ)、東浜巨(福岡ソフトバンク)、今永昇太(横浜DeNA)の3人はドラフト1位組だが、今や日本のエースとも言える山本由伸(オリックス)はドラフト4位入団である。「モノはよかった。しかし、肩や足を痛めているという情報が上位指名をためらわせた」とある球団のスカウトは悔やんでいた。

 

 過去に遡ると千賀滉大(ソフトバンク・育成)、山井大介(中日・6位)、山本昌(中日・5位)、川尻哲郎(阪神・4位)ら、いわゆる非エリート組も大記録達成者に名を連ねている。スカウトが彼らの非認知能力を評価した結果だろう。

 

 翻ってアルゴリズムは、その選手の持つ意欲や自制心、協調性、創造力、ハングリー精神などといった非認知能力までは測れない。もしアルゴリズムが人間の内面にまで自由に立ち入って点数を付け始めたら、それはそれで恐ろしい時代である。

 

<この原稿は22年6月22日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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