ある時はジキルで、ある時はハイド。いったい、どちらが、このご仁の本当の姿なのか。それとも、どちらも本当の姿なのか……。


 今年4月、横綱・朝青龍が時津風部屋の豊ノ島を荒稽古で病院送りにした際、誰よりも怒ったのが、時津風親方だった。弟子を守るためには、たとえ相手が横綱であっても言うべきことは言う。体を張ってでも弟子を守ろうとする姿には好感が持てた。

 6月、序ノ口力士の時太山(本名・斉藤俊さん)が虚血性心疾患で急死した。リンチを疑う報道陣に「大切な子供を預かっているのだから、そんなことはできませんよ」と苦渋の面持ちで語った。
 しかし、その後、出るわ出るわ……。ビールびんで殴ったこと、「オマエらもやれ」と弟子たちに“集団暴行”を命じたこと、“事件”の発覚を恐れたのか、自らの判断で火葬の手配をしていたこと、リンチを命じた弟子たちと口裏合わせを行っていたこと、警察から事情聴取を受けた弟子たちに、「なんで本当のことを言うんだ」と一喝したこと……。また故人の名誉を傷つけるデマを意図的に流した疑いも指摘されている。

 一門のOBにも話を聞いてみた。「温厚で小心な人物。リンチなんて命じるわけがない」。何かの間違いだと言わんばかりの口調だった。だが、別のOBの意見は違った。「酒を飲むと豹変する。仏にも鬼にもなれる人。いつか、こういう事件が起きると心配していた」。仮面の内側を鋭く指摘した。

 時津風親方の実像がどうであれ、集団リンチにより17歳の尊い命が奪われたことは厳然たる事実だ。時津風親方の解雇は当然として、立件された場合、北の湖理事長の責任は免れまい。
 にもかかわらず、記者会見では「理事長自身の進退は?」の質問に「私? 師匠が一番、責任を取るべき」と逃げの一手。せめて「私も責任を痛感しています」くらいのことは言ってほしかった。事件を時津風部屋だけの不祥事に矮小(わいしょう)化しようとの意図がみえみえだ。

 少年の死因に疑念がもたれた時、なぜ真相究明に乗り出さなかったのか。自らの不作為で公権力の介入を招いただけでも理事長失格である。保身に走り、進退を誤ろうとしている理事長に「くれぐれも引き際だけはお間違いないように」と諌める側近はいないのか。この組織には国技を守る気概もなければ情熱も感じられない。

<この原稿は07年10月3日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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