(写真:1ラウンド目は「攻め急がず」に、慎重に相手との距離を探った田中〈左〉)

 29日、東京・後楽園ホールでボクシングのWBOアジアパシフィック・スーパーフライ級タイトルマッチが行われ、挑戦者の田中恒成(畑中)が、王者の橋詰将義(角海老宝石)を5ラウンド2分52秒TKOで下した。

 

「この舞台は似合わない」。世界最速の12戦目で世界3階級制覇王者に上り詰めた田中は戦前、こう口にした。地域タイトルではなく、世界タイトルのベルトを懸けて戦うことに、意味を求めた。だからこそ勝利、厳密にはKOでの圧倒的な勝利を自らに課したのだ。

 

 ただ、1ラウンド目の田中は好戦的だったコメントとは裏腹に、手を出さなかった。久しぶりの対サウスポーかつ、長身でリーチのある橋詰と向き合い、まずは距離感を確認した。しかし、その“作業”も本人曰く「1ラウンドの終わり頃」には終了した。

 

(写真:2ラウンドからギアを上げると、アッパーなどのコンビネーションを立て続けにヒットさせた)

 2ラウンドに入ると、田中は目に見えてギアを上げた。タイミングよく左フックを当て、この日初めてのクリーンヒット。観客を沸かせると、終盤にはダッキングからの右ストレートが橋詰の顔面を襲った。

 

 その後は、田中の一方的な展開となった。ボディーに顔面に、左右の多彩なコンビネーションを打ち込むと、橋詰の顔は見る見るうちに紅潮していく。4ラウンド中盤、橋詰は助けを求めるように、頭上の電光掲示板に表示された残り時間に目をやった。

 

 決着の瞬間は、5ラウンドに訪れた。残り1分、田中のパンチで眉をカットした橋詰がドクターチェックを受けた後だった。田中は的確な攻撃で、相手をコーナーに追い詰めると、猛ラッシュ。“勝負あり”と判断したレフェリーが右手を上げ、試合を止めた。

 

(写真:最後はレフェリーが試合を止め、5ラウンドTKO勝利。4階級制覇再挑戦へ前哨戦をクリアした)

 田中は試合後、「勝負所を絶対に見逃さないよう意識した」と今回のポイントを明かしたように、冷静な試合運びで21戦無敗の王者・橋詰を沈めた。WBOアジアパシフィックのベルトを腰に巻いたものの、目指している舞台はここではない。

 

「KOという結果自体は良かったが、内容は決していいものではなかった。ただ、自分の場合は“内容が良くなかったから世界は目指せない”などと言っていられない。内容よりも、世界戦で戦いたいという思いだけです」

 

 1年半前、WBO王者の井岡一翔(志成)の前に屈し、届かなかった世界4階級制覇。原点の攻撃的ボクシングに磨きをかけた田中は、もう目の前の獲物を逃がさない。

 

(文・写真/古澤航)