天国と地獄は紙一重である。

 

 

<この原稿は2022年7月4日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

 

 大谷翔平のボスであるエンゼルスの監督ジョー・マドンがさる6月7日(現地時間)、チームの不振を理由に解任された。

 

 出だしは好調だった。5月15日(同)の時点では24勝13敗でア・リーグ西地区の首位に立ち、8年ぶりのポストシーズンゲーム出場に向け、視界は良好だった。

 

 ところが25日(同)のレンジャーズ戦から泥沼の12連敗。解任時点では地区首位のアストロズに8・5ゲーム差をつけられていた。

 

 マドンに引導を渡したペリー・ミナシアンGMは苦渋の決断だったことを強調した。

「私たちには、まだ106試合残っている。これが最善の方向に向かうための決断だと信じている」

 

 68歳のマドンはア・リーグで2回(08、11年)、ナ・リーグで1回(15年)、計3回もリーグ最優秀監督賞を受賞している名将だ。

 

 戦術家でも知られる。16年には“ヤギの呪い”で有名なカブスを、108年ぶりのワールドシリーズ制覇に導いている。

 

 どんな監督なのか。レイズ時代、マドンの下でプレーした経験のある岩村明憲は、こう語っていた。

 

「ジョーは本当にオープンな性格。監督室は常にドアが開かれていて“何でも聞きに来い!”と。不調の時には“日本でやっていた調整法で、こっちでできることはないか。協力するぞ”とまで言ってくれました」

 

 エンゼルスでは大谷の“二刀流”に理解を示し、より多くの出場機会を提供した。昨季のリーグMVPは、指揮官のサポートの賜物である。

 

 世話になったボスの突然の解任を受け、大谷は殊勝な面持ちで「すべてが監督のせいというわけではない。自分自身も調子が上がらず、申し訳ない思いももちろんある」と語った。

 

 過去、メジャーリーグで最優秀監督賞を受賞した人物が、日本プロ野球で指揮を執ったことは一度もない。マドンを招聘する球団は現れないものか。

 


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