5階級制覇王者のノニト・ドネア(フィリピン)を返り討ちにしたことが評価され、世界3団体統一王者(WBAスーパー&WBC&IBF)となった井上尚弥が、米リング誌が決める「パウンド・フォー・パウンド」最強に選ばれたのは3週間前のことだ。日本人初の快挙にボクシング界隈は沸いた。

 

 あらゆる階級を通じて、一番強いボクサーは誰か。これは米リング誌の初代編集長であるナット・フライシャーが1950年代初頭に創案した概念で、ウェルター級とミドル級でケタ外れの強さを誇ったシュガー・レイ・ロビンソン(米国)の功績を称えるためのものだったとも言われている。

 

 このパウンド・フォー・パウンドがボクサーの実力を評価する上での横軸の基準なら、縦軸の基準が「オール・タイム・ランキング」である。あらゆる時代を通じ、その階級で最強のボクサーは誰か。

 

 井上が3団体を統一したバンタム級において、昨年12月の時点で、リング誌は次の5人をノミネートしている。1位エデル・ジョフレ(ブラジル)、2位ルーベン・オリバレス(メキシコ)、3位カルロス・サラテ(同)、4位マヌエル・オルティス(米国)、5位パナマ・アル・ブラウン(パナマ)。井上はテリー・マクガバン(米国)、オルランド・カニザレス(同)、ウィラポン・ナコンルアンプロモーション(タイ)とともに「A Notch Below」。すなわち、先の5人より「一段劣る」という扱いだ。

 

 「ガロ・デ・オーロ」(黄金のバンタム)の異名を持つジョフレの1位は衆目の一致するところだろう。78戦して、わずか2敗。2つの汚点の相手は、いずれもファイティング原田。“狂った風車”が巻き起こした乱気流に精密機械の計器が狂った。ならば原田もベスト5入りしてよかろう。

 

 オリバレスとサラテ、名匠クーヨ・エルナンデスに師事した2人のメキシカンの順位も妥当だろう。私情をはさみ、オリバレスを玉砕覚悟で追い詰めた金沢和良の奮闘も付記しておきたい。

 

 繰り返すが、この評価は昨年12月時点のもの。予告通り、ドネアにドラマすらつくらせなかった井上のベスト5入りは、もはや必定だろう。暮れに計画されているポール・バトラー(英国)との4団体統一戦に圧勝すれば、3強の一角に迫るかもしれない。

 

 ではパウンド・フォー・パウンドとオール・タイム・ランキング、すなわちあらゆる階級、あらゆる時代を通じて最強のボクサーは誰か。おのおのがた、これはシュガー・レイ・ロビンソンで決まりでしょう。

 

<この原稿は22年7月6日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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