インターネットで「小さな大投手」という言葉を入力して検索すると、さる6月30日、NPB史上28人目の3000投球回を達成した東京ヤクルト・石川雅規に関する記事が真っ先に出てくる。

 

 かつて石川は、自らの身長を169センチとしていたが、実際は167センチ。12球団を見渡しても、彼より身長の低いローテーション投手は、ひとりもいない。

 

 近年のエース級は190センチ前後が主流だ。日米通算185勝(7月11日現在)の田中将大(東北楽天)188センチ、同179勝のダルビッシュ有(パドレス)196センチ、“二刀流”ながら同63勝の大谷翔平(エンゼルス)193センチ、この4月、史上最年少で完全試合を達成した佐々木朗希(千葉ロッテ)190センチ――。かつて投手は180センチもあれば例外なく紹介文には「上背に恵まれた」と記されたものだが、プロ野球投手(7月11日時点の支配下登録)の平均身長は約182センチ。もはや180センチ程度では「長身」とは言えまい。

 

 私が知る限りにおいて、プロ野球で最初に「小さな大投手」と呼ばれたのは広島の長谷川良平である。身長167センチ、体重56キロという小さな体で通算197勝をあげた。同時代に活躍した400勝投手の金田正一に生前、長谷川について聞くと「あの人が巨人におったら300勝はしとったね」と語ったものだ(さすがに400勝とは言わなかったが……)。ちなみに金田の身長は185センチ。当時としては雲をつくような大男だ。大男ゆえに「小さな大投手」の偉大さが骨身に染みたのだろう。

 

 そこで3000投球回達成者(日米通算)30人の身長を調べてみた。30人のうち160センチ台は長谷川と石川の2人だけだった。

 

 元祖・小さな大投手の長谷川は「よく、そんな小さな体でできますね」と聞かれ、「いや小さいからできるんです」と答えたという逸話が残っている。武器であるシュートを放る際のヒジの使い方、得意のフィールディングを指してのものと思われるが、要は考え方なのだ。

 

 最近、「ギフテッド」という言葉をよく耳にする。直訳すれば、「天からの授かりもの」、噛み砕いて言えば、「持って生まれたもの」という意味だ。野球の投手で言えば、「長身」は、その最たるもの。だが、それはプロでの成功を約束するものではない。足らざるを嘆くのではなく補う何かを見つけ、それを磨く。石川は「僕は球が速くない。できないことに向かって努力するより、できることを継続する方が重要」と語っていた。柔軟な思考法、それもまた「ギフテッド」のひとつかもしれない。

 

<この原稿は22年7月13日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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