独の求める価値が日本の新たな武器に

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 80年代を生きるアメリカの高校生マーティにとって、日本車は高性能の象徴だった。タイムマシンに乗って出会った50年代の科学者ドクにとって、日本製は安かろう悪かろうの象徴だった。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で描かれたエピソードの一つである。

 

 同じような変化が、ドイツのサッカー界でも起きているのかもしれない。

 

 吉田麻也のシャルケ入りが決まった。驚いた。ブンデスとは無縁だった、すでに30歳を大きく超えている選手を、シャルケのような名門が獲得しようとは!

 

 もしフィッシャーやアブラムチク、リュスマンがプレーしていた70年代のシャルケがそんなことをしたら、ファンは季節外れのエープリルフールを疑ったかもしれない。補強が日本人のセンターバック? 激怒か、困惑か、失笑か。とにかく、歓迎する空気は皆無だったことだろう。

 

 だが、吉田の入団を伝える現地の報道は、概ね好意的で、少なくとも「驚愕」はない。結果がどうなるかはともかく、現時点でのファンは、メディアは、信じている。吉田麻也が、ボルシアMGに去った板倉滉の穴を埋めてくれることを。

 

 凄い時代になったものだ。

 

 テクニカルな助っ人が欲しい。そう考えたとき、日本人の多くはブラジル人を思い浮かべる。アルゼンチンでもウルグアイでもなく、なぜかブラジルを真っ先に思い浮かべる。ブラジル人というだけで、一定のテクニックが担保された気分にさえなる。

 

 ドイツ人にその自覚があるかはともかく、どうやら、彼らにとっての日本人も、何かを担保してくれる存在になりつつあるのかもしれない。自分たちに足りない何かを補ってくれる存在として、彼らは日本人を獲る。アメリカ人でもオーストラリア人でも韓国人でもなく、日本人を獲る。

 

 そもそもなぜ、ドイツ人は5大リーグの中でも突出して多くの日本人選手を獲得しているのだろうか。

 

 奥寺康彦が切り開いたから? そうかもしれない。ただ、ほぼ時期を同じくして、韓国の車範根(チャボングン)もブンデスでプレーしていた。先駆者の存在だけで、現状を説明するには無理がある。過去にこのリーグでプレーした数多の日本人選手が、日本人自身が気付かない共通した印象を、武器を、ドイツ人に刻んできたのではないだろうか。

 

 ドイツ人がチームを作る上で欠かせないと考える要素の何かを、日本人が持っているのではないだろうか。ドイツ人にはイタリア人やスペイン人やイギリス人とも違ったサッカーに対する哲学があり、その哲学が、日本人選手を吸引するのではないか。

 

 では、それは何か。

 

 ブンデスでプレーする日本人選手がそのことについて考え、自分なりの答えにたどりついてくれれば、カタールでの日本代表はドイツに対する新たな武器を手にしたことになる。

 

 先日、ラジオで対談した元女子日本代表の安藤梢が興味深い話をしてくれた。優勝した11年のW杯準々決勝で日本はドイツと対戦したが、その際、日本には大きな利点があったというのである。

 

「ドイツ語がわかったので、相手の指示や心理状態が良くわかった。あれは大きかったですね」

 

 同じ武器を、令和4年の男子日本代表も持っている。新たな武器を獲得すれば、勝利の確率はより高くなる。

 

<この原稿は22年7月7日付「スポーツニッポン」に掲載されています>

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