第72回「マラソンの暑さ対策って!?」
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そんな暑い中でも、皇居ではぞろぞろと人が走り出す。さすがにマラソン熱が高まっているようで素晴らしいことだが、夜ならともかく、あの暑い昼間に走っている姿はどうも感心できない。身体を鍛えているというより、身体をいじめていると言った方が適切か!?(写真:暑い大阪を選手が駆け抜ける)
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(優勝したヌデレバ。暑さ対策などないそうだ)
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選手やコーチによっては前者、つまり暑さに慣れる事が大切と考える人も多く、あえて暑い時に走るというタフなトレーニングを積んでいるようだ。先日、イギリスの世界選手権代表ランナーであるマーラ・ヤマウチ選手に話し聞く機会があったが、彼女のトレーニングも暑さ対策は暑い東京で走って、気候順化を図るというものだった。イギリス人は湿度の高い暑さに弱いので、慣れる必要があるのだとか。その成果か、彼女は大阪で9位に入った。
逆に土佐礼子や嶋原清子は直前まで中国やアメリカの高地で合宿し、いい環境でのトレーニングに主眼を置いた。いかにいい練習を、いい環境で重ねるか。確かに東京の暑さの中では練習の効率も落ちるし、練習量も落とさざるえない。順化か効率か。この三選手はいずれも世界選手権の成功者の部類なので、どれが正しいなんて分類する事は出来ないが、まだしばらくは関係者のテーマになりそうだ。
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ちなみに私の経験的には、いかにいい練習を積めるかが成績につながるので、いい環境で練習する方がいいと思う。過去にも暑い中でトレーニングしていて体調が悪くなってしまったり、疲労が蓄積してピーキングに失敗した選手を見てきた。
私自身も、練習の疲労が蓄積してくると、身体が火照って寝るのも苦しくなることも。
「レースの一発なんて、体調さえ良ければ押し切れるもの。そのためには、いい環境でいい練習を積み重ね、いい体調でスタートラインに立てるかが勝負になる」というのが個人的見解。暑さに堪える練習を重ねると我慢強さは養われるが、疲労も予想以上に蓄積してしまう。エンデュランススポーツの大きな敵は疲労なので、これって意外に大事な要素だと思うのだが〜。
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そもそも日本人は暑さに向いている。アングロ・サクソン系の人は体温が高く、寒さには強いが暑さには弱い。逆に日本人は暑さには強いが寒さに弱い。我々の世界でも、寒いレースになればなるほど日本人に勝機はないというのは常識。ということは、日本人はそもそも耐暑トレーニングなんて必要ないのでは?とも考えられる。前出のマーラ選手ならともかく、我々には耐暑機能が備わっているはずだと思われるのだ。
また、暑いレースでは給水が欠かせない。体重にもよるが私の場合だと、暑いレースでは1時間に1〜1.5L程度は発汗する。という事は2時間のレースでも3L、9時間のアイアンマンでは13.5Lの発汗量。とすると、9時間の間に最低でも10Lの給水を取る必要がある。問題はそれだけの水分を、吸収できる胃腸があるかという事だ。口から入れる事は出来ても、身体に吸収できなければ意味がない。それは鍛えて強くなるものなのか? 医学的根拠はないが、私の感覚ではおそらくこれは生まれつきの能力と、その日の体調によるものが多いのではないかと予測する。とすれば、酷暑トレーニングなどするより、体調管理に努めた方がいいという事になる。やはり暑い中で無理をする必要などないのか……。
暑いマラソンは選手寿命を縮めるとも言われているが、世界選手権やオリンピックなど大きな大会が暑い時期にくる昨今の状況からは逃げようがない。でも、スピード勝負より酷暑耐久レースのほうが我々日本人に向いているとするならば、むしろ歓迎すべき方向性。いずれにしても、「暑さには強いのだ」と信じて、厳しいレースを味方につけたもの勝ち!?
白戸太朗オフィシャルサイト
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スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。