日本では、暑い夏を迎えていた8月。ロンドンでも長い雨を抜けてようやく太陽が毎日顔を見せるようになった。6月下旬からなんと6週間にもわたって雨、雨、雨……。いくら悪天候に慣れているブリティッシュだって嫌になる。で、やっと好天が戻ってきた8月第1週の週末に「The Michelob ultra London Triathlon」が開催された。この大会、なんとロンドン市内で開催され、1万2千人もの参加者を集める。我々が考えているトライアスロンとは随分違うようだ。
(写真:スタートは約200人程度ずつに分かれて出て行く)
(写真:会場は展示場内)
 近年、イギリスのトライアスロンシーンが盛り上がっているという噂は聞いていた。なかでもロンドントライアスロンが凄い勢いだと。この世界のプロとして、そんな大会を見ておかなければならぬと現地へ。
 11年前から始まったこの大会、6年前にはたった1000人の大会だった(といっても、日本国内に1000人を超える大会など年間10前後しかないので、それでも大きい大会?)。それがたった6年でなんと12倍! よくもそれだけ増えるものだ。もちろん1大会の参加者としては世界最高規模。2日間かけて、これだけの人がトライアスロンを楽しむ一大イベントになった。

(写真:テムズ川だが港なので流れはない)
 そして目を見張るべきは、参加者の中でこれが初レースという人の割合。実に4500人、約4割近くの人が始めてのトライアスロンに挑戦するという。「イギリスでもっとも成長しているスポーツはトライアスロンで、毎年10%ずつ伸びている」というデータにも頷かされる。なるほど、リピーターを含めると、毎年参加者が伸びるわけだ。
 ましてや、ロンドン中心地から電車で30分の「カスタムハウス」という駅にある、「エクセル」という展示場がメイン会場。東京でいうと、有明あたりの展示会場でやっているようなもので、「離島で行う村おこしスポーツイベント」という感覚はまったくなし。簡単なアクセスも人気に一役買っているだろう。

(写真:泳ぎ終ったら笑顔が……素敵です)
 それにしてもなぜ、イギリスでこんなにトライアスロンが盛り上がっているのか。どうやら、国民の健康に対する意識の変化にあるようだ。先進国ではどこでも見られるように、肥満とされる成人の割合が高まっている。しかし、皆が不健康かというとそういう訳でなく、健康志向が高い人は増々高くなっている。特に傾向として学識レベルが高い人ほど意識も高い傾向があるようだ。
 つまり、健康に対する意識は2極化の傾向があるといってもいいかもしれない。不健康な人はますます不健康になり、意識の高い人はよりフィットネス志向が高まっているという事。これは日本も少し近いところにあるかもしれない。とにかく、健康志向の高い人はランニングなどのエアロビクススポーツを行うのは当然。世界屈指の人気マラソン「ロンドンマラソン」は4万人の参加枠があっという間に埋まってしまい、参加することが難しい状態が続いているという。

 朝、ハイドパークやテムズ川沿いを見ると、「何かイベントでもあるのですか?」と聞きたくなるぐらい走っている人が多い。また、この10年はサイクリング人口の伸びが凄まじく、街中で自転車の目立つ事! なんでも市当局も自転車普及に力を入れているようで、朝夕の通勤時間にはちょっとした自転車ラッシュが起きるくらい多くなっている。健康志向が高く、マラソンと自転車が盛んで…こんな空気がトライアスロンに向かったとしても何の不思議もないだろう。
(写真:観客もビールを飲んでのんびりと盛り上がる)

「ウエットスーツを着ていりゃスイムは何とかなるし、自転車は通勤で乗っているし、マラソンも経験があるから何とかなるはずさ」
 会場で知り合った50歳のナイスミドルは初レースを直前にやや緊張しながらこう語ってくれたが、多くの参加者の気持ちを代弁してくれているのかもしれない。
 そう、健康志向の高いブリティッシュが、トライアスロンに流れるのは当然なのかもしれない。そして、国民の盛り上がりが競技レベルの底上げにつながり、ワールドカップや世界選手権でも「GB」のユニフォームが目立つようになってきた。関係者としては羨ましい限りだ。
(写真:速くて遅くてもフィニッシュしたら笑顔)

 さて、日本でもマラソンブームに加え、自転車も盛り上がってきた。はたしてトライアスロンがこうなる日が来るのだろうか!?

白戸太朗オフィシャルサイト

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。
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