二宮清純: 前編では、サッカー日本代表の課題点などについて語っていただきました。後編はサッカーワールドカップ(W杯)カタール大会の展望についてお伺いします。引き続き、よろしくお願いします。

セルジオ越後: こちらこそよろしくお願いします。

 

 楽しみな11月開催

 

二宮: 従来、W杯は6~7月に行われていましたが、今回はカタールの猛暑を避けるために11月下旬に開幕します。

越後: 僕は11月開催がすごく楽しみなんです。

 

二宮: どういった理由で?

越後: これまでの流れだとヨーロッパ主要リーグの日程を全て消化してからW杯が始まっていたじゃない? ビッグクラブに所属するスタープレーヤーたちは多くの試合をこなすから体がボロボロの状態で代表に合流しなくちゃいけなかった。今回はスタープレーヤーたちがフレッシュな状態でW杯に臨めそうだね。

 

二宮: ヨーロッパの主要リーグは夏にシーズンが始まります。カタールW杯での選手たちのパフォーマンス次第では2026年W杯以降も秋開催を視野に入れた方がいいのではないでしょうか?

越後: “検討する価値アリ”だよね。実際、「W杯は秋に開催すべきだ」というサッカージャーナリストもたくさんいますからね。そもそも、フルシーズン戦った選手たちは一般の人の感覚で言うところの“お腹いっぱい”の状態に近いわけ。たとえサッカーが好きでも、少し離れたいと思うのが本音だよね。

 

二宮: 今回、スタジアムには冷房が完備されています。暑さ対策に余念がないですね。

越後: アジア最終予選で日本代表が中国代表と対戦した時、カタールのスタジアムで試合したよね?

 

二宮: 新型コロナウイルスによる渡航制限により中国サッカー協会(CFA)が中国での試合開催を困難と判断したためですね。2021年9月8日(日本時間)に中国で行われる予定だった対日本代表戦がカタールでの開催となりました。

越後: 一度、選手が経験しているのは大きい。中国代表に1対0で勝った後、次はアウェイのサウジアラビア代表戦だったでしょう? 「次のサウジアラビアのスタジアムは冷房ないから、気を付けてね」ってポロっと言ったら……。

 

二宮: セルジオさんが不吉なことを言うから0対1で負けちゃった(笑)。

越後: 冗談で言ったんだけどなァ。結果的に日本代表がW杯に出場できてホッとしたよ。

 

二宮: ヨーロッパとカタールの時差がさほどないのは好影響でしょう。たとえば、イングランドとカタールの時差は約2時間です。

越後: それは大きなメリット。聞いたところによるとブラジル代表は一度、イングランドに入ってからカタールに乗り込むみたい。日本代表のメンバーも大半が海外組だしね。国内組はおそらく3~4人でしょう。大幅な時差の調整が必要な選手は少ないから、コンディション調整はやりやすいよね。

 

 移籍した選手たちへのエール

 

二宮: 日本代表メンバーで、今季から新天地に活躍の場を移した選手がいます。

越後: 僕は南野拓実(プレミアリーグ・リバプール→リーグアン・モナコ)と三笘薫(ベルギーリーグ・ユニオン→プレミアリーグ・ブライトン)に注目しています。

 

二宮: 南野は出場機会を求めて、三笘は保有権があったブライトンに戻りました。

越後: 南野は世界レベルの選手が揃うリバプールでは思うように試合に出られなかったからね。モナコでの出場時間、活躍次第によって日本代表にプラスをもたらせるかどうかが決まってくる。

 

二宮: アジア最終予選でヒーローとなった三笘は?

越後: ベルギーリーグとプレミアリーグはレベルが全然違うよ。この移籍は大きなステップアップと言っていい。三笘のドリブルが通用するか見物だよ。

 

二宮: スペインのレアル・マドリードからレンタル移籍を繰り返していた久保建英はレアル・ソシエダに完全移籍しました。

越後: レアル・マドリードから離れたね。僕は久保の移籍も良かったと思う。

 

二宮: なぜでしょうか。

越後: これは日本のメディアにも責任がある。「バルセロナ下部組織出身」「レアル・マドリード所属」「レアル・マドリードからレンタル移籍」とか見出しをつけて、久保がベンチやスタンドで座っているだけなのにカメラで抜くでしょう? 試合に出てないんだから、過剰にスター扱いしなくていいんだ。ベンチの久保よりピッチ上の選手を映すべき。

 

二宮: セルジオさんの持論ですね。

越後: 久保が悪いわけじゃないのは重々承知しています。僕から言わせると、メディアの取り上げ方がくどいんだ。良くも悪くも、もうレアル・マドリードの選手ではなくなったわけだから、きちんと試合に出て、活躍してメディアに取り上げられて欲しい。

 

二宮: さて、日本代表はドイツ代表、コスタリカ代表、スペイン代表と同組のグループEに入りました。

越後: 厳しいグループだね。どの国も日本代表から「勝利=勝ち点3」をマストに星勘定するでしょう。

 

二宮: 予想を覆すための方策は?

越後: 縦に走る距離がどうしても長くなっているから、それを縮めたいよね。低い位置でボールを奪って攻撃に転じようとしても、相手ゴールまでが遠すぎる。それで体力を消耗しているから、できるだけ高い位置でボールを奪って攻撃を仕掛けたいね。

 

二宮: サイドハーフが守備に追われ、サイドバックと同じ位置にいることが多すぎますね。

越後: これだとしんどいよね。体力がある試合序盤はいいんだけど、時計の針が進むにつれてプレスが弱くなって失点してしまう。どうやってプレスをかけて効率よくボールを奪えるかがカギになりそう。

 

 サプライズは起こりにくい

 

二宮: では、全体的な予想は?

越後: 気候的に問題はなさそうだし、カタールは国土面積が狭いから移動距離が短い。さらにビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の導入、映像確認もある。サプライズは起きにくいだろうから強豪国が順当に勝ち進むと思う。

 

二宮: カタールは日本の秋田県とほぼ同等の面積と言われています。移動距離による有利不利がないこと、VARの導入を考えるとたしかにサプライズは起こりにくそうです。

越後: 攻守が高いレベルで安定しているブラジル代表とアルゼンチン代表は順調に勝ち進むでしょう。あとはオランダ代表、ドイツ代表、そしてベルギー代表かな。

 

二宮: オランダ代表にはリバプールの最終ラインを支えるフィルジル・ファン・ダイクがいます。オランダは準優勝が3回。9カ国・地域目の優勝国に名乗りをあげるとすれば、やはりオランダ代表でしょう。

越後: ファン・ダイクは世界でもトップレベルのDF。身長193センチと空中戦にも強い、フィジカルコンタクトも抜群に強い。一発で状況を変えるロングフィードの精度も抜群です。前線にタレントが揃っていますから上位進出のチャンスはあると思う。

 

二宮: ドイツ代表は前回大会、グループリーグ敗退の憂き目にあっています。

越後: 同じ過ちは犯さないと思う。バイエルン・ミュンヘンのメンバーを中心に連係がうまく取れている。セルジュ・ニャブリら攻撃陣も良いメンバーが揃っているね。

 

二宮: 前回大会、日本代表はベスト16でベルギー代表に敗れました。ベルギー代表については?

越後: 司令塔のケヴィン・デ・ブライネを中心に、選手たちが円熟期に入っている。デ・ブライネも31歳でW杯を迎えるでしょう。ベルギー代表は今大会で優勝を逃すと、しばらく厳しいんじゃないのかな。

 

二宮: ベルギー代表はカナダ代表、モロッコ代表、クロアチア代表と同じF組。ベルギー代表の1位通過が予想されます。一方、日本代表が厳しいE組を2位で通過した場合、またしても決勝トーナメント1回戦で日本代表対ベルギー代表の対戦が実現します。

越後: 楽しみだね。前回、ベルギー代表には2対0でリードしていたところから2対3と逆転されたからね。苦い記憶がある日本代表としてはリベンジする機会があるわけだ。

 

二宮: ぜひ、そこまで頑張ってほしい。

越後: まずは厳しいグループリーグを日本代表が突破できるように、僕も応援しますよ!

 

(おわり)

 

<セルジオ越後(せるじお・えちご)プロフィール>

1945年7月28日、ブラジル・サンパウロ市生まれ。18歳で名門・コリンチャンスとプロ契約。72年、藤和不動産サッカー部(湘南ベルマーレの前進)に入部。74年に現役を引退した。78年から日本サッカー協会公認「さわやかサッカー教室」の認定指導員として全国各地でサッカーの魅力を伝える。“辛口サッカー解説者”としても有名。2006年に文部科学省の2006年生涯スポーツ功労者表彰、2013年には外務大臣表彰を受けた[16]。2017年4月、旭日双光章を受章。現在はアイスホッケーチームのH.C.栃木日光アイスバックスのシニアディレクター、日本アンプティサッカー協会のスーパーバイザーを務める。

 

(文/写真・大木雄貴)


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