フリーキックに磨きをかけろ!<前編>

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二宮清純: サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会開幕まであと約3カ月。日本代表の現在地や、カタールW杯の展望をサッカー解説者としてお馴染みのセルジオ越後さんと語り合います。よろしくお願いします。
セルジオ越後: こちらこそよろしくお願いします。

 

二宮: 日本はドイツ、コスタリカ、スペインと同組。本番の厳しい戦いを見据え、6月にはパラグアイ、ブラジル、ガーナ、チュニジアと“スパーリング4連戦”を行いました。
越後: ブラジルとチュニジアはベストメンバーで戦ってくれましたよね。パラグアイはW杯に出ないこともありメンバーが揃っていなかったし、コンディションが悪かった。参考にはしづらい試合だったね。

 

二宮: ブラジル戦はネイマールにPKを決められ、0-1の敗戦。スコア的には善戦でした。セルジオさんはどうご覧になりましたか。
越後: 必死に守っていて、あとは何かが起きてくれれば……というような展開だったね。

 

二宮: 日本は18のファウルを犯し、イエローカードは2枚ももらってしまった。「ファウルが多い」との報道がありました。
越後: ファウルで相手の攻撃を止めるのは1つの手段。でも、あのブラジル戦は親善試合だからこそできた。これがW杯本番だったら、あそこまでファウルで止められるかな。

 

二宮: 本番は累積警告による出場停止のリスクがあります。
越後: 選手層が厚いチームなら累積警告はさほど怖くないかもしれないけど、日本は選手層が厚いとは言えない。しかも、同じ試合でイエローカードを2枚もらって退場なんてこともあり得るでしょう。

 

二宮: ブラジル戦ではネイマールにボールが渡ると日本の選手は激しくプレスをかけていました。
越後: ターゲットは彼だった。だけど、ドイツやスペインには、“この選手を潰せば”っていうターゲットがいないんだよね。

 

二宮: ブラジル戦とは少々、守り方が変わってくる?
越後: そう。だから、日本がドイツやスペイン相手にどういう守り方をするのかが注目ですね。単純にゴール前に人数を割いて守るだけだと、我慢しきれずに崩れてしまうかもしれない。

 

二宮: 世界ランキング30位と日本(24位)よりやや格下のチュニジアに0-3で敗れたのはショッキングでした。
越後: 吉田麻也がかなり疲労していたね。あの試合は吉田がボロボロだったこともあるけど、引いて守ることを日本はやらなかったね。

 

二宮: チュニジアのジャレル・カドリ監督は「日本の弱点は守備。DFが難しい状況になるとミスをする。DFラインの裏にボールをつけるように意識した」と語っていました。
越後: しっかり研究されていたね。それにカドリ監督になってチュニジアは3勝2分け、全て無失点(日本代表と対戦前)。見事にやられてしまった。

 

二宮: PKを与えるなど、全ての失点に絡んだ吉田をどう評価しますか?
越後: 6月の試合に全て出ていたから、体が動かなかったのかな。でも、彼のあんな姿は珍しい。中心選手だから交代させにくかったんじゃないかな。あれが他の選手だったら、交代させていたよね。

 

 キッカー不在の日本代表

 

二宮: ここ最近の日本の攻め手は、右サイドの伊東純也と途中から出てくる三笘薫のサイド突破くらいに映ります。
越後: 厳しいことを言うとアジア相手だから彼らが上手に見える。ブラジル戦では止められていたのが現実かな、と僕は思うね。

 

二宮: そうなると、攻め手は……。
越後: セットプレーから点がとることができたらなァ。今の代表、セットプレーはほとんど入らないのが現実だよ。

 

二宮: 先月のE-1選手権の香港戦で相馬勇紀が直接フリーキック(FK)を決めました。A代表では約3年ぶりに直接FKが入ったそうです。
越後: 昔はもっとたくさん、キッカーがいたじゃない。何でこうなっちゃったんだ。今の日本代表って、固定のキッカーがいないよね。

 

二宮: 蹴るとすれば伊東、田中碧、試合に出ていれば久保建英……このあたりでしょうか。
越後: 昔は木村和司、彼はちょっと古いかな(笑)。あとは中村俊輔、遠藤保仁、本田圭佑……とセットプレーになればワクワクしたじゃない。それが今の代表にはない。

 

二宮: 三浦淳寛(選手時代は三浦淳宏)もいましたね。
越後: 右利きと左利きが揃っていてバリエーションが豊富だった。攻撃がファウルで止められても「よし! FKだ!」ってスタンドが盛り上がったよ。

 

二宮: 「蹴るのは俊輔? 遠藤? 角度的に俊輔の左足かな?」と観ている方はワクワクしましたよ。
越後: 今の代表でそんなふうに思う? 申し訳ないけど、誰が蹴っても一緒だなって思っちゃう。

 

二宮: 直接FKは強豪国に体格で劣る日本にとって、チャンスのはずなんですけどね。
越後: おっしゃる通りですよ。ボールは止まっていて、壁はボールから9.15メートル以上離れなくちゃいけない。フィジカルコンタクトは関係ないから練習さえ積めば、武器になる。今の選手たちは練習しているのかなァ、と思ってしまうほどだよ。

 

二宮: 鹿島アントラーズにジーコが入った頃、練習を取材したんです。全体練習が終わった後、ジーコはゴールの角にビブスをひっかけたり、ボトルを置いたりして、それに当てる練習をしていました。あの自主練習は見ているだけでも楽しかったな(笑)。
越後: 僕ね、フリーキックの練習ってお箸の練習に似ていると思うの。

 

二宮: どういうことでしょうか?
越後: お箸を持てるようになるために、いちいち遠方に出掛けて合宿をやりますか? やらないでしょう。何時間も練習しますか? しませんよね。お箸って毎日使っているうちに、段々使い方がうまくなるでしょう。フリーキックも毎日、少しの時間でいい。練習を継続して習慣づければきっとうまくなるよ。

 

二宮: フリーキックも毎日、少しずつ、と。
越後: 今はもしかするとGKの練習相手をするGKコーチが、一番FKがうまいかもよ(笑)。

 

二宮: セルジオ節がさく裂していますね(笑)。カタールW杯グループリーグ突破のためにも“飛び道具”は必要になってきます。
越後: 俊輔のセルティック時代、チャンピオンズリーグで戦うときは彼の左足が少ないチャンスをモノにする武器になっていた。俊輔はチーム内でもキッカーとしてリスペクトされていたからね。本当にすごいことだよ。

 

二宮: 俊輔は世界的GKのファン・デル・サールがいたマンチェスター・ユナイテッドからホーム戦とアウェイ戦の両方で直接FKを決めています。あれは圧巻でした。
越後: 南アフリカW杯のデンマーク戦でも本田と遠藤が1発ずつFKを決めて、ベスト16進出を決めたじゃない。

 

二宮: 初戦・カメルーン戦に1-0で勝利、2戦目のオランダ戦は0-1の敗戦。1勝1敗で迎えたデンマーク戦ですね。デンマークも1勝1敗で3戦目を迎えました。まずは前半17分、本田が右サイドからのFKを得意の無回転シュートでゴールネットを揺らしました。

越後: 本田が大事な場面でしっかり決めてくれたよ。ゴールから30メートル以上あったけど、彼のキック力がいきたね。シュートが左サイドネットにすっぽりと吸い込まれていったのは今でもしっかり覚えているよ。

 

二宮: そして30分にはゴール正面から遠藤が右足でゴール右サイドに沈めました。
越後: 本田がパワー系なら遠藤は綺麗な弧を描いたコントロールショットだった。歴史を振り返ると、やっぱり日本にとって良いキッカーがいるかいないかは大きいよ。

 

二宮: 本来、日本人は器用なはずですから。
越後: 所属クラブの試合でキッカーとして認められれば、もっと練習するはずだよ。選手たちには頑張ってほしい。

 

二宮: 前編では日本代表の課題について語っていただきました。後編ではカタールW杯の展望などについて伺います。
越後: 今年は秋開催で、いつもと違うからちょっと楽しみだよね。後編もよろしくお願いします。

 

(後編につづく)

 

<セルジオ越後(せるじお・えちご)プロフィール>
1945年7月28日、ブラジル・サンパウロ市生まれ。18歳で名門・コリンチャンスとプロ契約。72年、藤和不動産サッカー部(湘南ベルマーレの前進)に入部。74年に現役を引退した。78年から日本サッカー協会公認「さわやかサッカー教室」の認定指導員として全国各地でサッカーの魅力を伝える。“辛口サッカー解説者”としても有名。2006年に文部科学省の2006年生涯スポーツ功労者表彰、2013年には外務大臣表彰を受けた[16]。2017年4月、旭日双光章を受章。現在はアイスホッケーチームのH.C.栃木日光アイスバックスのシニアディレクター、日本アンプティサッカー協会のスーパーバイザーを務める。

 

(文/写真・大木雄貴)

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