ベネチア国際映画祭で最高賞を競うコンペティション部門にノミネートされた映画『LOVE LIFE』(深田晃司監督)。耳の聞こえない男性を演じたのが「ろう者」の俳優・砂田アトムである。その砂田が手話について、実に興味深い話をしていた。

 

「たとえば聞こえる人たちには、歌が好きという方がいますよね。ではオペラの声、あのオペラの歌は、誰でも歌えますか? そうではないですよね。やはり特訓して技術が認められて、やっとオペラの舞台に立って素晴らしい演技ができるわけですよね。手話も同じです。ただ手話ができればいいというわけではなくて、魅せられる手話が必要なのです」(NHK「おはよう日本」2022年9月10日放送)

 

 魅せられる手話――。それはどういう手話か。たとえば「木」。手話基本辞典によると<両手の親指と人差し指でそれぞれ半円をつくり、左右に開きながら上げていく>。これが基本動作だが、砂田がやると木がなびいたり、生い茂っている様子まで伝わってくるのだ。ここまでくると「言語」というより「表現」である。砂田は「30年以上魅せる手話の練習を続けていますが、まだまだ初心者です」(同前)とも述べている。

 

 10日、オーストリアのウィーンで開かれた国際ろう者スポーツ委員会総会において、東京が25年「デフリンピック」の開催地に決定した。日本では初開催。計画によると大会期間は11月15日からの12日間、約80の国と地域から5000~6000人の選手の参加を見込んでいる。

 

 ある縁がきっかけで、この2月からデフスポーツ団体を束ね、サポートする一般社団法人日本デフスポーツ協会立ち上げの作業を手伝っている。デフリンピックの東京開催は日本のデフスポーツ発展の慈雨になるものと期待しているが、ボトルネックがないわけではない。それは国際手話通訳者の不足である。音声言語に日本語、英語、仏語などがあるように、手話にも日本手話、米国手話、仏手話などがあり、それらはいずれも似て非なる、という。

 

「デフリンピックは国際会議並みに国際手話が共通言語になると思います。ただし国際手話ができない人たちもいる。たとえば自国の手話しかできないフランス人選手と日本人選手が意思の疎通を図る場合、仏手話から国際手話、国際手話から日本手話へと変換しなければならない。デフリンピックを成功させるためには、世界中の手話通訳者に協力してもらう必要がある」(デフスポーツ関係者)。

 

 デフリンピックに関する都民の認知度は、わずか10.4%(昨年10月時点)。まずはここを改善しなければならない。今月23日は「手話言語の国際デー」である。

 

<この原稿は22年9月14日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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