8月22日、カメルーンを迎えて、アジアカップ後初となる日本代表戦が行なわれました。結果は2−0で日本代表が勝利しましたが、内容ではカメルーンのスピード、テクニック、フィジカルの強さの前に随分苦労した印象を受けました。


 何よりも簡単にボールを奪われ過ぎです。身体能力の違う相手に対してボールを奪われない戦い方を考え、ゲームをコントロールすることができませんでした。例えば、ボールを奪われてはいけない時間帯やゾーンでボールを失い、ピンチに陥ってしまうことがしばしばありましたね。

 アジアの相手に対してできたことが、世界を相手にするとやらせてもらえないという現実をカメルーンに突きつけられました。

 アジアではなく世界へ目を向けた時、さらなる個々のスキルアップの必要性を改めて感じました。それはピッチ上で戦った選手が一番実感しているはず。またそうでなければ向上は望めません。

 今後の日本代表はオーストリア戦、スイス戦、エジプト戦が予定されています。来年にはワールドカップアジア予選が始まります。1戦1戦を大切にして充実した準備をしてほしいですね。

 フル代表同様、ユース世代も世界の壁を実感させられました。U-17ワールドカップに出場したU−17日本代表は予選グループ最終戦のフランス戦、1点リードした状態から逆転負けを喫して決勝トーナメント進出を逃してしまいました。フランスの個々の能力やプレー精度、勝負所を抑える勘の前に日本は屈しました。

 フランス戦での日本の一番の問題点は、ボールの奪われ方が悪いことでした。中盤で横パスをカットされてそのまま失点に繋がったケースもありましたからね。選手も一つのミスが致命傷に即つながることを実感したはずです。U-17日本代表の選手は高い授業料を払ったと思って、今回の経験を今後のサッカー人生に生かすべきだと思います。

 各世代の日本代表が世界の場で苦戦する姿を見ると、つくづく日本は海外での経験が不足していると思います。今後は代表チームだけでなく、クラブチーム単位で積極的に海外に出て欲しいですね。さすがにシーズン中は無理ですが、プレシーズンに行くことは可能だと思います。

 僕の現役時代、鹿島アントラーズはヨーロッパに遠征してインテル(イタリア)とクロアチア代表と試合を行いました。フィジカルの強さやスピードの違い、ボール回しの速さといったことに驚きましたが、この経験が後に生きました。

 海外で叩きのめされた経験は一生忘れないし、そういう思いをした方が選手もチームも強くなるもの。個人単位でもチーム単位でも、どんどん海外に出ていくべきですね。

<鹿島、10冠への期待>

 この8月、Jリーグにも大きな動きがありました。開幕直後から首位をキープしていたガンバ大阪に代わり浦和レッズが遂に首位に立ちました。ガンバ大阪の失速も手伝いましたが、それよりも浦和レッズの充実ぶりを褒めるしかありませんね。

 僕の古巣クラブである鹿島アントラーズは第23節終了時点で3位につける健闘をみせています。今になって結果が出てきた第1の要因は若手、サブメンバーの頑張りです。彼らの頑張りによってチーム内に競争ができ、いい意味での緊張感が出てきています。例えば内田篤人の台頭はその最たるものですね。

 柳沢敦、小笠原満男といった海外組の復帰がチームに精神的な安定をもたらしたことも間違いありません。また彼らの加入で前線、中盤でタメができるようになったことも大きかったと思います。

 もう一つ8月の快進撃の要因があります。それは日本代表に1人も選出されなかったことです。そのためアジアカップ開催中にじっくりチーム作りをすることができました。8月12日のJリーグ再開後、4勝1敗の好成績を残していますからね。本来、代表チームに1人も選出されないのは不名誉なことですが、今回に限ってはそれが奏功したようです。

 8月のアントラーズの戦いぶりをみて、サポーターも10冠に大きな期待を寄せています。リーグ戦は首位浦和レッズと勝ち点10差がありますが3位につけていますし、ナビスコカップもベスト4に残っています。アントラーズサポーターの切実な願いが叶うのか。今後のアントラーズの戦いに期待したいと思います。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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