アジアカップはイラクの優勝で幕を閉じました。残念なことに日本は準決勝敗退に終わり、3連覇を達成することはできませんでした。何より痛かったのは、優勝を逃してコンフェデカップへの出場権を獲れなかったことです。コンフェデはワールドカップ前に強豪国と対戦できる貴重な真剣勝負の場ですし、開催国の南アフリカを肌で感じることができる絶好の機会ですからね。


 今大会を通して、日本は幾つもの課題を突きつけられました。まず気になったのは、相手が引いてきた時に打開策がないということです。準々決勝のオーストラリア戦、準決勝のサウジアラビア戦、3位決定戦の韓国戦がまさにそうでした。
 
 グループでボールを回しながら最後に勝負する時、仕掛ける時があるはずなんですが、そこでチャレンジできない選手が多かった。結局、ドリブルでいこうとしても抜ききれず、またチャレンジ自体をしない。これでは相手DFは怖くありません。
 
 改めて個の大切さを思い知らされたのがサウジアラビア戦です。日本はサウジアラビアの個の力に屈し、3点を奪われて敗れてしまいましたからね。グループで戦う日本のサッカーの完成度はアジアでも高い方だと思いますが、そこにもっと個のスパイスを入れていく必要性を感じました。選手たちはもっと得意なプレーで主張してもよかったと思います。

 状況に応じた戦い方の変化、柔軟性が欠けていたことも課題の一つだと思います。中村俊輔や遠藤といったFKの名手がいるにも関わらず、ペナルティエリアの近くでドリブルを仕掛ける選手がいませんでした。言いかえれば、自分たちのいい部分を出し、相手の嫌なことをする意識が欠けていたんです。
 
 ファールを誘うわけではありませんが、仕掛けるからこそDFの足が出てくるし、ファールになってFKを獲得できる可能性も増えるんです。逆にいうと、仕掛けなければ相手に怖さを与えられません。ボールを持ったらどんどん仕掛けてシュートで終わっていたサウジアラビアとは対照的でした。

<パワープレー、ボールが中澤の上を通り過ぎていく…>

 パワープレーに関するチーム内の意志統一も希薄でした。サウジアラビア戦で3点目を取られた後、早い時間からパワープレーになってしまい、しかも徹底できませんでした。途中から中澤が前線に上がっていきましたが、中澤が上がりきらない状態でロビングを上げて、ボールが中澤の上を通りすぎる展開が何度もありましたからね。
 
 しかも前線の人数が少なく、一列になっている状態が多かった。それでは競った後のボールを拾うことはできません。日本のパワープレーは全く得点の可能性を感じさせないものでした。チームの中でのシミュレーションやトレーニングが不足していたことは否めません。

 柔軟性の欠如という面では選手交代もそうでしたね。交代はシフトチェンジをする有効な手段ですが、今大会は選手交代でゲームのリズムが変わることはありませんでした。例えば、後半に相手がバテバテになったところでドリブルが得意な選手をいれるとか、相手の嫌なことをする選手起用は見られませんでした。

 サブメンバーに適当な駒がいなかったのかもしれませんが、オシム監督もあらゆる状況を想定した交代策のイメージを持っていなかったのではないでしょうか。オシム監督が交代策を効果的に使えない部分が露呈したことは、ある意味、収穫だったかもしれません。

 ディフェンス面で気になったのは、セットプレーでの失点が多かったことです。7失点中4点がセットプレーから奪われたものでした。集中が足りなかったのかもしれませんが、トレーニングの不足が影響したことも考えられます。

 セットプレーでは、どこにボールがこぼれてくるか予想することは非常に困難です。では、どうすればいいのか。トレーニングの中であらゆる場面を想定して、場数をこなすしかないんです。あらゆるシチュエーションがイメージできていれば試合中の突発的な出来事にも対応できるし、体は動くもの。要はイメージが足りなかったんだと思います。

<オシム体制、この1年間の評価は5段階中3未満!>

 課題ばかり挙げましたが、今大会を通しての収穫もありました。オーストラリア戦等でボールと人が動くオシム流サッカーの一旦をみせたことです。また大会前の合宿から3位決定戦まで、1ヶ月余りを代表メンバーが一緒に過ごす機会をもてたことは今後に生きてくるはずです。

 そしてもう一つは、サッカーが点取りゲームだということを再認識させられたこと。当り前ですが、サッカーは巧くボールを回しても得点にはなりません。チャレンジして、シュートを打たなければ点にならないことを今大会で改めて思い知りました。

 大会期間中にオシムジャパンが発足して1年が経ちました。この1年の通信簿をつけるとしたら、5段階評価で3未満の2.7もしくは2.8ですね。一番の不満は、やっているサッカーのコンセプトがわからないことです。走るサッカー、ボールも人も動くサッカーといいますが、ボールを動かして、人も空いたスペースに入り込んでボールを受けるのはサッカーでは当然のこと。

 当り前のことの精度と質を上げていくつもりなのかもしれませんが、今のところ、それが選手に浸透しているようには思えません。また、それを実現するためにはハイレベルの個々の能力が要求されますが、今の日本の選手たちはそこまでのレベルに達していません。

 当り前のことを当り前にこなし、その質を高めていくことほど難しいことはありませんからね。アジアカップという大きな代償を払って、オシムジャパンがどう変わるのか。今後が非常に楽しみです。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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