10月28日から30日にかけて甲府市内で行われた「信玄公祭り」は、3年半ぶりの開催ということもあり、過去最高の17万8千人の人出を記録した。メインイベントの「甲州軍団出陣」にも負けない人気を集めたのが、下克上の末に天皇杯優勝を果たしたJ2ヴァンフォーレ甲府の優勝記念パレードだった。

 

 本来ならアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)出場も決め、めでたしめでたし、というところだが、クラブ側には頭痛の種がある。スタジアム問題だ。

 

 周知のようにACLは開催基準として、背もたれのある5000以上の個別席の設置を義務付けているが、甲府の本拠JITリサイクルインクスタジアムの座席は、背もたれのない“棒席”となっているため、代替会場を確保する必要に迫られているのだ。

 

 現時点では都内の味の素スタジアム、長野県松本市のサンプロアルウィン、静岡県袋井市のエコパスタジアムなどが候補に上がっているが、確定するまでには、まだ時間がかかるという。「せっかくの晴れ舞台、故郷に錦を飾れないのは地域に支えられたクラブとして悔しいし、悲しい」とあるクラブ関係者は嘆いていた。

 

 実は甲府には以前からサッカー専用の「新スタジアム構想」がある。現在の本拠地の南側に建設しようというもので、「収容人数は1万5千人のコンパクトなスタジアム」(前出・クラブ関係者)を計画していた。だが、現在は県がこの構想に乗り気ではなく、実現の見通しは立っていない。

 

 人口が減少する中、行政が財政負担を考慮し、ハコモノに慎重になるのはわからないでもない。他方で新スタジアムを地域振興、地域活性の核に位置付けるという考え方もある。

 

 甲府には追い風が吹いている。現在、建設中のリニア中央新幹線が開通すれば、東京の品川駅から2駅、わずか25分で甲府市大津町に作られる「山梨県駅」に到着する。25分と言えば通勤圏だ。さらに名古屋からは約40分。交通の利便性は格段に増す。

 

「山梨は空気がきれいだし、富士山をはじめ豊かな自然が残っている。また果物など食材も豊富でワインもうまい。物価も安く生活がしやすいため、交通のアクセスがよくなると、首都圏や中京圏から移り住む人が増えてくると思うんです。今ならテレワークで仕事もできますから。そして、土曜日の夜は専用スタジアムで家族とサッカーを楽しむ。そんなワークライフバランスを追求してもいいのではないでしょうか」(前出・クラブ関係者)。彩のある豊かな暮らしにサッカーは、そしてスポーツは欠かせない。生まれ変わろうとする甲府には、新しい“我が家”があってもいいような気もするが…。

 

<この原稿は22年11月2日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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