〽サラリーマンは 気楽な稼業と 来たもんだ

 

 で始まる植木等が唄う『ドント節』(作詞・青島幸男、作曲・萩原哲晶)に、次のような一節がある。

 

 〽社長や部長にゃ なれそうもねえが 定年なんてのァ まだ先のこと

 

 この歌が流行したのは1962年。まさに高度経済成長期のど真ん中である。

 

 右肩上がりの経済成長を続ける日本型経営の強みは①終身雇用制、②年功序列賃金、③労働組合にあると言われてきた。企業は従業員を守り、従業員は会社を支える。それは双方にとって、ともに成長を実感できる幸せな時代だった。労使のエンゲージメントも高かった。

 

 しかし、何事もそうだが幸せな時間は、長くは続かない。人材の固定化は組織の硬直を招き、改革を先送りにする。長年の不作為がおりのように溜まって、現在、日本企業の生産性はG7の中で最低の水準にある。今になって政府はリスキリングの重要性をしきりに説き始めたが、なぜ周回遅れのランナーになる前に手を打たなかったのか。

 

 これまで日本企業は人材確保のアクセスとして、そのかなりの部分を新卒採用に依存してきた。不定期採用は「中途入社組」である。言葉のニュアンスからして差別的だ。

 

 同様のことはプロ野球においても言える。正規採用は、毎年秋に行われる「ドラフト会議」を経て交渉権を得、契約した選手たち。ドラフトの正式名称は「新人選手選択会議」だ。

 

 今冬から、現役選手を対象にしたもうひとつのドラフトが始まる。こちらは「現役選手選択会議」か。その内容については8日付けの本紙が詳しく紹介していた。

 

 MLBには「ルール・ファイブ・ドラフト」と呼ばれるマイナーリーガーを対象とした独自の移籍制度がある。いわゆる“飼い殺し”を防ぎ、人材の流動化を促すために作られた。

 

 近年の成功例としては、ロイヤルズのローテーションに加わったブラッド・ケラーがあげられる。彼は17年までの4シーズン、ダイヤモンドバックスのマイナーチームでくすぶっていたが、その年のオフ、レッズから指名を受けた。直後にロイヤルズへ金銭トレード。ここで運が開けた。18年からの5シーズンで35勝をあげている。NPBでも「現役ドラフト」が軌道に乗れば、ケラーのような選手が何人かは出てくるだろう。

 

 私が思うに、プロ野球においてこれまで選手は球団の「固定資産」という考えが根強かった。しかし今後は日本球界発展のための「流動資産」という考え方に徐々にシフトしていくのではないか。飼い殺しはチームのみならず球界全体の損失であり、持続可能性の観点からもマイナスだと。プロ野球が変われば、日本社会が変わる――。そのくらいの意気込みで取り組んでもらいたい。

 

<この原稿は22年11月9日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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