第29回 國光宏尚(フィナンシェ代表取締役CEO)「スポーツの『WEB3.0』」
「Sportful Talks」は、ブルータグ株式会社と株式会社スポーツコミュニケーションズとの共同企画です。多方面からゲストを招き、ブルータグの今矢賢一代表取締役社長、二宮清純との語らいを通じ、スポーツの新しい可能性、未来を展望します。
今回のゲストは、ブロックチェーン技術を活用した、NFT事業やクラウドファンディング2.0サービス「FiNANCiE」を展開する株式会社フィナンシェの國光宏尚代表取締役CEOです。トークン(FT&NFT)事業とスポーツの親和性について聞きました。
二宮清純: 私たちがインパクトを受けたのは、昨年8月にサッカーアルゼンチン代表のリオネル・メッシ選手がFCバルセロナからパリ・サンジェルマンへ移籍した際、契約金の一部がトークンから捻出されたというニュースです。最初は海外のビッグクラブだからこそできることなのかなと思っていたら、日本でもトークンで資金を集めるサッカークラブが出てきた。クラウドファンディングとトークンとの違いは継続性。クラウドファンディングは目的達成の資金集めですが、トークンの場合は、トークンホルダーがクラブの成長を楽しむという仕組みです。この事業はいつからスタートしたのでしょう?
國光宏尚: 株式会社フィナンシェを創業したのが3年前です。ブロックチェーンという仕組みの中で、どういうことができるかを考えた時に、“株式会社に代わる新しい仕組みをつくれないか”が我々の最初の入り口でした。最初の2年間はアイドルが使ったらどうか、インフルエンサーが使ったらどうか、といろいろ試行錯誤しました。去年の1月にJリーグの湘南ベルマーレに活用していただきました。そこから特にスポーツとの相性の良さを感じます。これまでにJリーグ、B.LEAGUE、卓球、バレーボールの約85チームにフィナンシェ上でトークンを発行していただいています。トータルで一次流通と二次流通を合わせ、約1年で20億円ほどの資金が動いています。
今矢賢一: スポーツとの相性の良さはどの点に感じますか?
國光: スポーツチームのみなさんと話していると、ビジョンが明確なんです。ほとんどのチームが2つのビジョンを掲げている。ひとつはスポーツを通して地元を活性したい。もうひとつは試合に勝ち、優勝する。すさまじくわかりやすいビジョンがあるので、コミュニティが形成しやすいんです。今までのファンクラブ、YouTube、投げ銭、クラウドファンディング、ファンコミュニティやファンエコノミーを支えるプラットフォームは応援したファンにメリットが少ないものでした。ただ応援するだけになってしまっていた。それに対し、このフィナンシェ的な仕組み、DAO(分散型自律組織)的な仕組みは応援したファンにもメリットが生まれるものとなっています。この仕組みは「WEB3.0」「トークン発行型クラウドファンディング」と呼ばれています。
二宮: スポーツも新時代に突入したということですね。
國光: ある意味、資本主義をファンビジネスに持ち込んだという感じでしょうね。2007年にgumiという株式会社を創りましたが、僕のファンだから株を買っている人も中にはいたと思います。でもほとんどの理由は投資として儲かるからです。これは他の上場企業にも当てはまること。一方、NPOというのは共感したファンしか買わない。それは従来のファンビジネスと同じこと。でも、ファンじゃないけど、“ここは伸びそうだから買おう”と考える人を巻き込んでいくと、より大きな市場をつくれると思うんです。そのためには応援するだけじゃなくて、応援した側にもメリットがあることが大事。そして、スポーツの問題点はほとんどのチームが地元の人しか、お金を落とさないことです。わざわざ球場に行ける人しかビジネスとしては……という感じになってしまっている。フィナンシェのような仕組みを使えば、その地域に住んでいない人でもどんどん応援していくようになる。地域以外の人も巻き込めるのは大きいと思っています。
コンサル収入も
二宮: プロスポーツクラブの収入源には4つの柱があります。入場料、スポンサー、テレビ放映権、飲食・物販。これらがコロナ禍の影響で見込めなくなった。そこでトークンというのは5つ目の柱になり得るのかなと。
國光: そうですね。ですからトークンを持っている人も、値上がりがどうというよりもトークンを持つこと自体がファンの証だったり、議決権のない投票権を得るような感じでしょうか。今後は球団運営に参加したいというケースも出てくるかもしれない。プロ野球球団であれば、ドラフトでどんな選手を獲るとか、トレードでどの選手とどの選手を交換するか。ファンがお金を出し合い、ファン感謝イベントを開催する。ファンもただ与えられるコンテンツを見るだけじゃなくて、企画から関われる。
今矢: その設計のフレキシビリティは、トークン、ブロックチェーンのトランスパレンシー(透明性)の上にできること。設計次第では、トークンホルダーにいろいろな権利を付与できる一方で、フィナンシェのプラットフォームを使う人たちの設計能力も重要だなと感じました。
二宮: 同感です。その設計に関しては、フィナンシェ側も関わっていくと?
國光: フィナンシェの運営チームもアドバイスすることはありますが、チーム側から面白いアイディアを出していただいています。面白いのはフィナンシェ上で、目標金額を集められるのは、必ずしもチームが競技のトップリーグにいることや、有名だからということではない。まさにやっている人たちの熱意とアイディア次第なんです。投資家っぽい人からすると、有名じゃない方が“のびしろがある”と捉える場合もあります。我々が、次に考えているのは、トークンで成功したチームには、そのノウハウがある。そのチームが他のチームのコンサルティングを請け負うことで、収入を得たり、トークンの一部を取得する。それが伸びていけば、そのチームの新しい収入源になりますね。
二宮: 常に新しい提案をしていかないといけないと考えると、コンサル業務も必要になりますね。ヨソがやっていない、ウチだけしかやっていないオリジナリティ、希少性が大事になってきますよね。
國光: そうですね。フィナンシェ上で、トークンを絡めた面白い仕組みをみんなでつくっていくということです。今、考えているのはゲーム性を高められないかということ。例えば持っているトークンを、ギャンブルにならないかたちで、どの選手が得点を入れるか、どっちが勝つかなどにうまく活用できたら面白いと思っています。
二宮: たしかにトークンとeスポーツとの親和性は高いと感じます。スポーツベッティングには批判的な人も多いのですが、そこまで発展していけば、もっと市場が広がっていきますよね。
國光: そうなってくるとトークンの使い道もわかりやすくなってくる。いきなりスポーツベッティングというと規制、法律があって難しい。ただ合法の範囲の中で、このトークンを用いたゲーミフィケーション(ゲーム以外のことにゲームを活用すること)という提案はアリだと思います。僕はずっとゲーム会社をやってきているので、アイディアベースでは結構出せると感じています。
IEOで世界進出
今矢: 基本的にはチームのファンがトークンを購入するというかたちがベースなのでしょうが、いわゆるチームのファンクラブとトークンの違いは?
國光: そこは明確にあります。ファンクラブはスポーツも音楽も特別な試合、ライブに行ける権利がベースになっている。ただ、それが欲しいから入る。そのファンにとっては、新しいファンが増えるメリットがない。そこで、よくファンクラブであるのが既存ファンのお局(つぼね)化問題です。新規の、いわゆる“にわかファン”が入ってくることを好まない。それって既存ファンにメリットがないからです。我々フィナンシェの場合は、ファンが増えるとトークンの価値が上がり、みんなが得する。ファンがファンを呼び、より大きくしてくれる。ここが大きな違いだと思います。
二宮: 投機目的の人も売りたい時はダーッと売ったりするのでしょうか?
國光: 最初、投資目的で買った方も、そのチームのことを知っていく過程でファンになり、何があっても売らない、ロイヤルな株主が増えてくる。それが株価の安定につながります。何があっても売らないという人がどんどん増えていけば、下支えの価値が上がる。そこに投機的な人も入り、その人も固いファンになることで、チームの価値がどんどん膨らんでいくことが理想なかたちだと思います。
今矢: プロジェクトに参加するチームや、トークンを購入する方は国内?
國光: そうです。現状は日本在住者に向けたサービスになっています。フィナンシェの次の展開としては、今までは各チームのトークンでしたが、フィナンシェ自体のトークンを出していくことです。ここでいうトークンとは仮想通貨ではなく、デジタルポイント。フィナンシェの中だけで流通するポイントです。そういうかたちにしているのは、日本で仮想通貨の規制があるからです。最終的には地域通貨になるのが理想だと思っています。そのトークンがまちの通貨代わりになる。そうなればトークンの使い道や可能性はさらに広がってくる。ただ今は禁止です。ちゃんとした手続きをとって、仮想通貨化しなければいけません。これをIEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)と言います。ブロックチェーンプロジェクトの発行するトークンを、仮想通貨取引所が先行販売するサービスを指します。このIEOのプロセスがIPO(新規上場株式)と同じくらいすごく大変です。ただ、もしIEOに成功したら、その次の展開にいける。まずは各クラブが発行しているデジタルトークンの仮想通貨化。これができるようになれば、先ほどの地域通貨化に進める。利用用途が増えていけば、いよいよ世界中の人に購入してもらえるようになります。それができるようになってくると、地元だけじゃなく、世界中の人たちを巻き込める。そうすればより市場が大きくなり、トークンの可能性も広がっていくと思っています。
<國光宏尚(くにみつ・ひろなお)プロフィール>
1974年、兵庫県生まれ。高校を卒業後、中国、チベットなどのアジア諸国、北米、中南米など約28カ国を放浪。中国・復旦大学、アメリカ・SantaMonicaCollegeを経て、2004年に株式会社アットムービーに入社。取締役に就任し、映画・テレビドラマのプロデュースと新規事業の立ち上げを担当した。07年に株式会社gumiを設立し、代表取締役に就任。GREEをプラットフォームとするソーシャルゲームの企画・開発・運用で急成長を遂げ、積極的な海外展開を進めた。21年8月より株式会社Thirdverse代表取締役CEOおよび株式会社フィナンシェ代表取締役CEOに就任。著書『メタバースとWeb3』(エムディエヌコーポレーション)を今年3月に出版した。
(鼎談写真・構成/杉浦泰介)