「Sportful Talks」は、ブルータグ株式会社と株式会社スポーツコミュニケーションズとの共同企画です。多方面からゲストを招き、ブルータグの今矢賢一代表取締役社長、二宮清純との語らいを通じ、スポーツの新しい可能性、未来を展望します。

 

 今回のゲストは、ホッピービバレッジ株式会社の石渡美奈代表取締役社長です。SUPER GT300クラスのHOPPY team TSUCHIYAのオーナーも務める石渡社長に、事業とスポーツの親和性について聞きました。

 

※対面&オンラインのハイブリッドインタビューで実施

 

“人柄の良い”会社と商品づくり

 

二宮清純: 本日はよろしくお願いします。実は私、東京の大学に進学し、上京してから初めてホッピーに出合いました。私の故郷・四国にはなかったんです。

石渡美奈: ほぼ半世紀に渡り、ご愛飲いただきありがとうございます。今も首都圏を中心に展開しているので、西日本でのお取り扱いは多くはありません。

 

二宮: 私の周りにもホッピーファンは多いですよ。人と人をつなぐ商品だと感じています。

石渡: 光栄です。弊社は競泳の日本代表ヘッドコーチを務めていらした平井伯昌先生率いる「平井レーシングチーム」も応援させていただいております。このご縁も実は平井先生が、ホッピーがお好きということがきっかけでした。今は家族ぐるみでお付き合いさせていただいております。

 

二宮: 今矢さんもホッピーを飲まれたことは?

今矢賢一: 僕も関西出身で、高校・大学はオーストラリアにいました。それから日本に戻ってブルータグの事業を始めた頃、当時の東京出身のメンバーに「ホッピーって知ってる?」と教えてもらったのが、出合いですね。ホッピーにはそれぞれの飲み方、スタイル、ストーリーがあって、面白いです。

石渡: ありがとうございます。次回は地元赤坂で是非ホッピーを酌み交わしましょう。

 

二宮: ぜひぜひ。昔と比べて味は変わっていないのでしょうか?

石渡: それこそ二宮さんが初めてホッピーをお飲みになった約40年前と現在とでは品質は格段に向上しています。

 

二宮: 同じ商品でも、マイナーチェンジを繰り返しているわけですね。

石渡: そうなんです。ホッピーは麦芽、ホップ、酵母という命の恵みから生まれています。命ある酵母、大切に扱えば元気に成長しますし、粗末に扱うとすねる。目に見えないものですが、人と同じで非常に繊細なんです。

 

今矢: 発酵は世界に誇れる日本の食文化ですね。また貴社は事業承継の成功モデル。日本のスポーツ産業は体質的に遅れていると感じていますので、今回の鼎談で、いいヒントをお聞きできればと思っています。

石渡: 恐れ入ります。

 

二宮: 事業継承という点では、全部受け継ぐだけでも能がないし、一新することでいい部分までなくしてしまって失敗する例もある。変えるものと残すものの取捨選択が難しい。

石渡: 私が最初に学んだのが「変えるものと変えないもの、変わるものと変わらないもの」ということです。創業者の思い、この会社に込めたものづくりへの思い。これは石にかじりついてでも守り抜く。技術や原材料だけでなく、我々の心、人柄も本物にこだわり抜いてこそのものづくりだと考えています。一方で、人の味覚も原材料の品質も年々変化しますから、時代に合わせていくことも必要。微調整は常に取り組んでいます。

 

二宮: 人柄とおっしゃいましたが、確かにホッピーの親しみやすさは、“人柄の良い商品”と感じます。

石渡: “人柄の良い商品”とは、私が3代目を拝命した時、ご挨拶に伺った取引先の酒屋の社長様より餞の言葉としていただきました。「『戦略、戦術が大事』だと言われるが、そんなのはすべて後付け。ホッピーがロングセラーとなったのは人柄が良いから。“人柄が良い商品”をつくるためには、つくる人の人柄が大事。人柄の良い経営者の元には人柄の良い社員が集まり、その結果、人柄の良い企業文化が醸成される。あなたがやるべきはお祖父様、お父様が育んだ人柄の良い商品づくり、企業文化を守り育てることだよ」と。それで弊社の人財教育の肝は“心磨き”であると標榜しています。

 

 人の縁がスタートライン

 

二宮: なるほど。社風が商品の味やキャラクターに受け継がれているんですね。石渡社長はモータースポーツチーム「HOPPY team TSUCHIYA」のオーナーも務められています。

石渡: 共同オーナーの土屋武士さんとは、彼がレーシングドライバーだった時に共通の友人を介して知り合いました。当時、私はモータースポーツのモの字も知りませんでしたが、武士さんのお人柄に触れて応援したいと思ったんです。私の父も彼の人柄に惚れ込んで、とてもかわいがっていました。それがご縁で2003年からパーソナルスポンサーとしてのサポートが始まりました。

 

二宮: そこからどういう経緯で共同オーナーに?

石渡: その後、私が2010年に弊社を、武士さんが2015年にお父様が創業した「つちやエンジニアリング」を承継し、2018年には弊社がつちやエンジニアリングメインスポンサーとなりました。19年8月、会長である私の父が亡くなりました。その直後のレースのことです。私は何も聞かされていなかったのですが、チームメンバー全員が喪章を付けてレースに臨んだ。「会長のために全力のレースを」と。さらに、父の訃報とチームの追悼の想いを、場内アナウンスで有名なピエール北川さんまでもが実況してくれたんです。私はこのご恩を一生忘れません。そのため武士さんには「『必要ない』と言われるまで私は応援するよ」と伝えました。その翌年からは武士さんと私の共同オーナー体制となりました。今後もつちやエンジニアリングを応援し続けられるように、本業もより一層頑張るのみと覚悟を決めていいます。

 

今矢: モータースポーツが本業の励みの一つになっているわけですね。

石渡: はい。実は弊社と、つちやエンジニアリングは環境が似ているんですよね。日本の酒類業界は、世界に冠たる大手ビールメーカーと、我々のような中小企業という構図。モーターレース界での大手ワークスに対するつちやエンジニアリングの立ち位置と同じなんです。また武士さんは跡取りで事業承継者という共通点もあります。モーターレースを通じて、自分たちの事業が見えてくることもある。武士さんたちが夢を実現し、観る人に夢を与えてくれる姿を観ながら、“我々もああなりたい”と勇気をもらっています。

 

今矢: スポーツへの協賛、支援は御社にとって、どういう役割を担っていますか?

石渡: 競泳もモータースポーツも、人とのご縁から始まっています。それだけ人とのつながりはとても大事にしています。社長がどのような人脈を持っているかどうかが、ダイレクトにマネジメントに響く。それが社員の仕事への喜びや誇りにつながると考えています。競泳日本代表の勝利へこだわる姿勢、いかなる時も鍛錬に励む姿には背筋が伸びます。つちやエンジニアリングの命懸けのチームワークやモノづくりへの誇りは、メーカーとして学べることがたくさんある。今後も出会いやつながりを大切にしていきたいです。

 

二宮: 石渡社長は自らが広告塔も務めている。近年の女性経営者のロールモデルになっているんじゃないですか?

石渡: 恐れ多いことです。私の場合、時代が後押ししてくれたと思います。私が入社した頃にIT革命が起こり、IT企業を中心に女性社長が徐々に認知されるようになってきた。私が広告塔になったのは、入社間もない頃に、あるバイヤー様より「ホッピーがロングセラー商品ということは知っている。でも売れない商品を置く棚はない。どのくらい広告を打てるのか?」とお言葉をいただいたことがあったからです。私は広告代理店に勤めていたことがあるので、大手メーカーの広告費用の相場はわかっていた。でもその広告費用を充てるほど潤沢な資金があるわけではない。“じゃあ私がやるしかない”と決めたんです。これなら自分の言葉でお客様に想いをお伝えできますしね。

 

二宮: 確かにそうですね。それでは今後の展望を?

石渡: 弊社はあくまでメーカーですから、日々技術を磨き、知見を貯え新商品も展開していく。新しいものをつくることで技術力が向上します。祖父と父が大切にしてきた本物へのこだわりを承継し、「BE HAPPY WITH HOPPY」に則って人生100年時代をサポートできる商品を考えていきたいです。今や発酵は英語でも「HAKKO」で通じる。発酵技術を磨き、皆様の幸せに寄り添える商品をつくっていきたいと考えています。そして今後、経営者として企業として最も求められるのは「地球環境問題」「少子高齢化問題」への取り組みだと考えています。弊社はモーターレースに加え、瀬戸内国際芸術祭や、俳優の別所哲也さんが率いるショートフィルムフェスティバル&アジアにも関わらせていただいております。スポーツも含めた広域のアートを通じて、真に豊かな社会や、後世が安心して受け継げる地球の実現に貢献して参ります。

 

石渡美奈(いしわたり・みな)プロフィール>

立教大学文学部卒業後、日清製粉(現・日清製粉グループ本社)に入社。人事部に所属し、1993年に退社。広告代理店でのアルバイトを経て、1997年に祖父が創業したホッピービバレッジに入社。広報宣伝を経て、2003年取締役副社長に就任。2010年より現職。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(SDM修士)。ニッポン放送『看板娘ホッピーミーナのHoppy Happy Bar』パーソナリティ、2015-2016年度東京愛宕ロータリークラブ会長、一般社団法人新経済連盟 幹事、学校法人立教学院評議員、早稲田大学商議員、Super GT 300クラスHOPPY team TSUCHIYAチームオーナー、一般社団法人全国清涼飲料連合会 環境委員会所属。著書に、『社長が変われば会社はかわる!』(阪急コミュニケーションズ)他。

 

(鼎談写真・構成/杉浦泰介、モーターレース写真/ⓒY.Ishihara)


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