8月14日現在、信濃グランセローズはゲーム差なしで首位を争う石川ミリオンスターズと富山サンダーバーズに2.5ゲーム差に迫っています。これからいよいよ後半戦。チームはもちろん、逆転優勝を狙っています。しかし、そのためにはエース・給前信吾(横浜商大高出身)の復調がカギと考えています。
 給前のストレートの威力はリーグでもダントツで、現在、通算奪三振数67は堂々のリーグ1位。ですから、調子がいいときには押しの一手で三振の山を築くことができます。しかし、制球力はあまりいい方ではありません。ですから、調子を落としてストライクが入らなくなってくると、それこそお手上げ状態。四球でランナーをためては、置きにいったボールをカーンと打たれてしまうのです。

 その悪い部分が6月には顕著に出てしまいました。5月までは勝ち星こそ2つしか得られなかったものの、ほとんどが完投、あるいはそれに近いイニングを投げていました。ところが6月は4試合に登板し、そのうち3試合がいずれも5回をもたずに序盤で降板してしまいました。給前はもともと下半身が強い投手ですが、疲労もあって下半身の粘りがきかなくなってしまっていたのです。

 そこで、さらに下半身を鍛えて安定感を出させようと、6月末にミニキャンプを張りました。全体練習後、木田勇監督がつきっきりになって、主に走り込みを中心としたメニューで徹底的に追い込みをかけました。

 完投へのこだわり

 その成果が早速出ました。7月1日の新潟アルビレックスBC戦に3番手として6回途中から登板し、3回2/3を投げて2安打無失点。チームも逆転に成功し、給前は約1カ月ぶりに勝ち投手となりました。しかも、打者13人のうち7人から三振を奪うといった給前らしい力強いピッチングが完全に戻っていました。
 
 ところが先発に戻した途端、また不調に陥ってしまったのです。7月14日の新潟戦では勝利投手にこそなったものの、7回を投げて2本のホームランで3点を失ってしまいました。さらに、7月20日の石川ミリオンスターズ戦では、5回を投げて8安打6失点。与えた四死球は6を数え、黒星を喫しています。

 原因は、先発としての責任感を意識し過ぎていることにあります。「先発なら完投しなければ」と思うがゆえに時折、力を加減してしまい、そこを痛打されてしまうのです。先発を任されて「最後まで投げたい」という気持ちを抱くのは当然のことです。しかし、完投ばかりを意識して打たれていたのでは何にもなりません。ですから、今は完投のことを考えずに、集中して投げてほしい。本人にも、そう伝えています。

 いよいよ後半戦に突入し、どのチーム必死の思いでしょう。我々も全員が一丸となって戦っていかなければ、上位2チームを追い抜いて優勝することはできません。投手陣にもそれぞれ役割を固定するのではなく、全員に先発、中継ぎ、抑えをやってもらうつもりです。もちろん、今は先発の柱である涌島稔(高知ファインティングドッグス出身)や佐藤広樹(徳島インディゴソックス出身)なども同じ。勝つために彼らにも中継ぎや抑えをやってもらうことだって十分あり得るわけです。

 ですから、給前にも先発としてのこだわりを捨て、いつどんなときも全力投球するという“がむしゃらさ”をもって試合に臨んでほしいと思います。それが、「自分がチームを引っ張っていく」という“エースとしての自覚”を生み出してくれるのではないかと期待しています。

 やんちゃ坊主からプロへ

 さて、私が選手にキャンプの時から言い続けてきたことがあります。それは「自分で判断して行動するように」ということです。私自身、現役時代は他人から「あれしなさい、これしなさい」と言われるのが苦手なタイプでした。自分に不足しているものがあったら、それを重点に置いて自ら練習すればいいし、わからないことがあったら自分から聞けばいい。そうやって自分自身で判断するようにしてきました。

 逆に言えば、そうしなければプロではやっていけません。またこうした判断力は野球だけでなく、社会人としても非常に大事なことだと思っています。ですから、この北信越BCリーグにいる間に自分が今、何をしなければいけないかを自らの判断で行動できる人間になってもらいたいと思っています。

 それは試合の間でも同じことです。ですから投手陣には「展開を把握して、言われる前に自分からブルペンに行って用意できるようにしなさい」と言っています。それはまた、「ここはオレが投げて抑えてやる」と監督やコーチにアピールするくらいの強い気持ちをもってもらいたいという思いも含まれています。

 どの選手もキャンプや開幕当初は、ただの“やんちゃ坊主”で、野球もただやっているだけという印象しかありませんでした。おそらく、このリーグに入れたことだけで満足していたところがあったのでしょう。しかし、最近では言われなくても自分で必要と思えば全体練習後に個人練習をしたり、試合でも自ら率先してブルペンに行く姿が見受けられるようになってきました。

 泣いても笑っても、今シーズンも残り約2カ月しかありません。あえて口にこそ出しませんが、選手全員がチーム一丸、優勝を目指して頑張ろうという気持ちでいることでしょう。とにかく悔いを残さないよう、最後まで精一杯やってもらいたいと思っています。そうすれば、おのずと結果が出てくる。私はそう信じています。


島田直也(しまだ・なおや)プロフィール>:信濃グランセローズピッチングコーチ
1970年3月17日、千葉県出身。常総学院時代には甲子園に春夏連続出場を果たし、夏は準優勝に輝いた。1988年、ドラフト外で日本ハムに入団。92年に大洋に移籍し、プロ初勝利を挙げる。94年には50試合に登板してチーム最多の9勝あげると、翌年には初の2ケタ勝利をマーク。97年には最優秀中継ぎ投手を受賞し、98年は横浜38年ぶりの日本一に貢献した。01年にはヤクルトに移籍し、2度目の日本一を経験。03年に近鉄に移籍し、その年限りで現役を引退した。日本ハムの打撃投手を経て、今季より信濃グランセローズピッチングコーチに就任した。



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 今回は信濃・島田直也ピッチングコーチのコラムです。「投手3年目の小林は発展途上」。ぜひ携帯サイトもあわせてお楽しみください。
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