先の参院選で与党、とりわけ自民党が大敗した大きな理由のひとつに「地方の反乱」がある。
 農村部を抱える1人区はこれまで自民党の金城湯池だったが、今回は6勝23敗。民主党がマニフェストに掲げた農家向けの「戸別所得補償制度」に対しては「バラまきではないか」との批判もあるが、地方には構造改革の果実はすべて中央にとられ、痛みばかり押し付けられてきたとの不満がある。それが一気に爆発したかたちだ。

 参院選の衝撃の結果の3日後、横綱・朝青龍の処分が発表された。選挙と相撲、双方を結びつけるものは直接的には何もない。だが、足元を深く掘っていけば、同じ地下水脈に突き当たるような気がしてならない。

 前週の当コラムでも述べたが大相撲の地方巡業は単なるイベントではない。公益法人の条件を満たすための大切な事業のひとつである。財団法人日本相撲協会は営利のみを追求しない公益事業や公益活動を行うことで税制面の優遇措置を受けてきた。ところが今回は、あろうことか国技の顔ともいえる横綱が“仮病”を使って地方巡業をスッポかしたのだ。厳しい言い方をすれば「公益法人認定法」の精神を踏みにじる行為である。“精神的拷問”とも呼べる謹慎の中身については疑問が残るが、それ以外の重罰は当然だ。

 しかし、本当に問われるべきは相撲協会の地方政策だ。外国人を除く幕内力士30人(名古屋場所)の出身地を調べたところ、参院選の1人区出身者は実に7割を占めた。大相撲は地方出身者に支えられているといっても過言ではない。

 過日、青森でスポーツ関連のシンポジウムに出席した。「青森県なくして大相撲は語れませんね」と水を向けると割れんばかりの拍手が起こった。帰り際、初老の好角家が怒りをぶつけるように、私に言った。「朝青龍は地方巡業なんてどうでもいいと思ってら。それが許せね」

 大相撲の地方巡業は1992年の94日をピークに減り続け、2005年はわずか15日にとどまった。昨年は21日。地方は大相撲を支える、いわば足腰の部分にあたる。ここが細れば大相撲の屋台骨を揺るがしかねない。自民党も日本相撲協会も地方を軽視してきたツケの支払いを今、迫られている。巨大権力のおごりはなかったか。

<この原稿は07年8月8日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

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