伊藤数子: 御社が障がいの有無や性別、年齢に関係なく楽しめる野球場として発明したのが「ユニバーサル野球」です。発明のきっかけは?

堀江泰: 約6年前、弊社の問い合わせフォームに、のちに「ユニバーサル野球」を発明する中村哲郎(現・堀江車輌電装株式会社未来創造事業部)から連絡が届いたんです。彼は当時北海道札幌市在住で元高校球児。それまでは建築関係の仕事をしていましたが、弊社の障がい者就労支援事業を知り、「残りの人生を障がいのある人のために捧げたい。働かせてください」と。その後、直接会って、話をして入社することになりました。

 

二宮清純: そこからなぜ野球に?

堀江: 彼は入社当初、障がい者支援事業部のスポーツ推進課に所属し、障がいのある方の就労支援や、子どもたちのレクリエーション教室を行っていました。ある日、レクリエーション教室で出会った重度の障がいのある子どもが野球好きで、その子に野球をやらせたいという思いがきっかけでした。弊社が大事にしているのは人の繋がりの中で何かをすること。そして思い立ったらやってみる。もちろんチャレンジしてダメになったものもいっぱいありますが、縁とスピード感を大事にしています。

 

二宮: ダメ元で、やってみなければわかりませんよね。

堀江: その通りです。実際にやってみないとわからない。「ユニバーサル野球」も試行錯誤を重ね、2019年3月に野球場の1号機が完成。特別支援学校の子どもたちと初めての試合をすることができるようになりました。

 

二宮: 段ボール製の「ユニバーサル野球」の球場は、実際のスタジアムの約20分の1の大きさです。巨大な野球盤みたいな感じですね。

堀江: そうですね。「ユニバーサル野球」の野球場はワンボックスカー1台で運べる大きさです。ワンボックスカー1台で日本全国を回れる設計にしました。「ユニバーサル野球」のいいところは、この野球場さえあれば誰でも参加でき、ガチンコで勝負できるという点です。

 

二宮: ホームランが出たら喜ぶでしょうね。

堀江: もちろんです。すごく盛り上がりますし、応援している人にも力が入る。参加している子どもは打てば自然と笑顔になりますし、打てなければ本気で悔しがりますよ。

伊藤: 一喜一憂して楽しめるというのがスポーツのいいところ。競技中の映像を拝見しましたが、親御さんも含め、皆さんがとても楽しそうでした。

 

 縁を大切に

 

二宮: 「ユニバーサル野球」は紐を引っ張るだけでバットを振ることができる仕組みになっている。その点で、身体の大きさや力はあまり関係なく、誰もが同じ条件で戦えるところもいいですね。

堀江: はい。平等に勝負できる、ユニバーサルなスポーツだと思っています。また「ユニバーサル野球」を通じて、いろいろな人と交流ができるのもいい点です。そこで障がいがある人に対しての配慮や、コミュニケーションの術を学べる。弊社が、障がいがある人のスポーツで支援を始めたのは知的障がい者サッカーがきっかけですが、今はすべての人を対象にした「ユニバーサル野球」を中心に進めています。この競技は障がいの有無のみならず、年齢、国籍関係なく誰もが楽しめるスポーツ。今は小中学校や児童養護施設、児童会館に出張することもあります。将来的には海外にも行きたいと考えています。

 

伊藤: 「ユニバーサル野球」は、ボランティアではなく有料で行っています。こういった事業が有料であることに眉をひそめる人もいますが、継続していくためには必要なことです。

堀江: おっしゃる通りです。ボランティアだと企業の経営が傾いた時に止まってしまう恐れがある。行政、学校には「ユニバーサル野球」開催のため予算を取っていただいています。それだけ開催したい思いがあるのかどうか。もし「ユニバーサル野球」を呼ぶのに必要な数万円が集められないほどの熱量ならば、弊社も行きません。私もボランティアでスタートしましたが、寄付金で成り立つものと成り立たないものがある。弊社としては継続して支援したいと思っていた。そのためにはお金が必要。ボランティアでもなくNPO法人でもなく会社の事業として展開していこうと考えました。

 

二宮: 完全に事業の一環ということですね。将来的には普通の野球場のように広告看板を掲出することもできそうですね。

堀江: そうですね。イベントをやる時は企業広告を出しています。そして必ずメディアに声をかけるようにしています。そうやってWIN-WINの関係を築くことが大事だと思っています。弊社としても最初は「ユニバーサル野球」で資金を集めることが難しかったんですが、メディアに取り上げられることで広告宣伝費をたくさんかけずに弊社のことを知ってもらえました。会社が注目されることによって、鉄道事業の方にも目を向けていただける。いろいろな相乗効果が出てきました。

 

二宮: 「ユニバーサル野球」をヒントに、誰もが楽しめるものをつくることは、他のスポーツでも応用できそうですね。

堀江: そうですね。弊社はスポーツ自体が好きなので、ニーズがあって“一緒にやりましょう”というご縁があれば、いろいろなことに挑戦したいです。私は「ユニバーサル野球」をはじめ、パラスポーツなどで小さい頃から様々な人との交流を深めていくことで、互いに得られる気付きや学びがあると考えます。それが共生社会実現への手助けになると信じ、今後も積極的に取り組んでいきたいと思います。

 

(おわり)

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堀江泰(ほりえ・やすし)プロフィール>

堀江車輌電装株式会社代表取締役社長。1980年、埼玉県出身。2000年に堀江車輌電装株式会社入社。鉄道車両の整備・改造の現場で7年働き、2007年に常務取締役、2012年に四代目代表取締役に就任。代々続く車両事業の拡大の一方で、2015年には障がい者支援事業、2016年にはM&Aによりビルメンテナンス事業を立ち上げ、事業領域を多角化した。“人”への想いと経営理念である「柔軟な発想と実行力で、広く深く社会に貢献する企業」を軸に事業へ取り組んでいる。学生時代はサッカーに打ち込んだ。

 

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