レッドソックスの松坂大輔には及ばないが、移籍金2600万ドル(約30億円)、年俸総額2千万ドル(約23億6千万円=5年)ながら7月17日(現地時間)現在、10試合に登板して2勝2敗、防御率6.97。ヤンキースの井川慶が苦しんでいる。

 結果には必ず原因がある。同じ日本人ルーキーでもレッドソックスの松坂や岡島秀樹に比べて、井川がメジャーリーグのマウンドにまだなじんでいないような気がするのは私だけか。
 通常、メジャーリーグのマウンドは日本のマウンドに比べて硬いといわれる。粘土質であるため、踏み出した足が滑りにくいのだ。

 メジャーリーグで5年間プレーした現千葉ロッテの吉井理人によると「コンクリートの上で投げているような感覚」なのだという。
「踏み込んだとき、スパイクがガッと止まる。だから軟らかいマウンドよりは体の力を伝えやすい。踏ん張りがききますから。そうすることで腕も振れるようになる。慣れれば日本のマウンドよりもメジャーリーグのマウンドの方が投げやすいと思います」

 軟らかい日本のマウンドのなかでも、とりわけ軟らかいのが甲子園球場だと吉井は言う。
 メジャーリーグのマウンドが「コンクリート」なら甲子園は「砂場」。かつてロジャー・クレメンス(ヤンキース)は「(日米野球の際)甲子園で投げたら調子が狂ってしまったよ」と語ったとか。

「砂場」から「コンクリート」へ――。井川がアジャストできないのも無理はない。ヤンキースのスカウトはマウンドの質の違いを知っていたのだろうか。

 もっとも井川の側にも非はある。伊良部秀輝や藪恵壹など投手で阪神OBの日本人メジャーリーガーから“取材”するなどして、もっと早く対策を立てるべきだった。厳しい言い方をすれば、それが「30億円」の責任である。周到な準備なくして成功はない。井川の苦闘がそのことを如実に物語っている。

<この原稿は07年8月4日号『週刊ダイヤモンド』に掲載された記事を再構成したものです>

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