「NTTジャパンラグビー リーグワン2022-2023」ディビジョン1第11節、埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉WK)が東京サントリーサンゴリアス(東京SG)を41-29で破った。埼玉WKはこれで開幕11連勝。勝ち点49で首位をキープした。東京SGは今季初の連敗。8勝3敗、勝ち点37で暫定3位となった。

 

 昨季のプレーオフ決勝と同一カード、前身のトップリーグでは最多タイ5度優勝の強豪同士の対決ということもあり、東京・秩父宮ラグビー場には2万人近い観客が詰め掛けた。ディフェンスに誇りを持つ埼玉WKと、アタックにこだわる東京SG。対照的なアイデンティティーを持つ両者の意地がぶつかり合った。

 

 前半4分、試合は動いた。東京SGのCTB中野将伍の飛ばしパスを大外で受けたWTB尾﨑晟也がディフェンスの裏にショートパントを蹴る。ボールは埼玉WKのFB山沢拓也の前で跳ねて、サポートランしていた中野の手中に収まった。中野はインゴール右中間に悠々とトライ。SOアーロン・クルーデンがコンバージョンキックを決め、東京SGが7点を先制した。

 

 今季初スタメンとなったSH流大のテンポの速い球出しで、東京SGは埼玉WKの陣内を攻め立てる。17分、CTB中村亮土の飛ばしパスを左隅で受けたNo.8テビタ・タタフが内に返し、PR小林賢太がキャッチ。PR平野翔平のタックルを切って、LOルード・デヤハーにつかまりながらもインゴール左隅に飛び込んだ。しかしボールを完全にグラウンディングできておらず、TMO(ビデオ判定)の末、ノートライとなった。

 

 東京SGのペースはさらに続く。18分、中村の飛ばしパスは今度右サイドへ。尾﨑がタッチライン際でキャッチすると、前にボールを蹴り出し、自ら追いかける。WTB野口竜司との競争となり、先に身体を前に入れる。尾﨑の手にボールが収まる前に野口が後ろからつっかかるかたちになり、バランスを崩した。そのままコントロールできずに悔しがった尾﨑だが、こちらはTMOの結果、野口のノーボールタックル&トライ阻止の反則となり、東京SGにペナルティートライが与えられ、野口にはシンビン(10分間の一時退場)が科された。

 

 数的不利を余儀なくされた埼玉WKだが、ここから粘りを見せる。敵陣でのプレーを続け、インゴールに迫る。トライこそ奪えなかったものの、相手のペナルティーを誘った。25分には反則の繰り返しにより、東京SGのタタフがシンビン。ピッチ上の人数は14対14となった。30分にはSO松田力也がPGを決める。野口を欠いた10分間は相手に得点を許さず、点差を縮めた。だが東京SGにPGを決められ結局、前半は3-17と2ケタ得点差で終えた。

 

 東京SGは田中澄憲監督が「完璧に近いゲーム運びだった」と語る出来だった。しかしハーフタイムを終えると、流れは一変する。後半5分、右サイドをFLラクラン・ボーシェーがWTB長田智希とのパス交換で突破。インゴール右にトライを挙げる。松田のコンバージョンキックも決まり、1トライ1ゴール差まで詰め寄った。

 

 東京SGに尾﨑のトライ、クルーデンのゴールで一旦は14点差に戻されたが、埼玉WKの猛攻は止められない。13分、ラインアウトからのモールでボーシェーがこの日2個目のトライ。その2分後には東京SG中村のパスをインターセプトし、抜け出したCTBディラン・ライリーがインゴール中央にボールを置いた。いずれもコンバージョンキックを松田が確実に決めた。

 

 そして20分。敵陣深くに攻め込み、松田がインゴール内にキックパスを送る。これを山沢がキャッチし、ついに埼玉WKが勝ち越した。26分にはテンポの速いパス交換から最後は長田が右中間に飛び込んだ。この日の松田のプレースキックは安定感抜群。計5本のコンバージョンキックを全て成功させた。33分にPGを決め、キック成功率は6/6。41-24と試合をほぼ決定付けた。

 

 終了間際に1トライを返されたものの、41-29で埼玉WKの快勝だ。埼玉WKのロビー・ディーンズ監督は「選手たちがハードワークしたからこその結果」と称え、「(チームからは)レジリエンス(耐久力、弾性)が見えた。ワークし続けなければならない苦しい展開を耐え、抑えるべきところを抑えられた。プレッシャーに対してどのように立ち向かったのかが感じられた」と総括した。キャプテンのHO坂手淳史も「結果的に勝利でゲームを締めくくれたのは、ワイルドナイツの選手一人ひとりの役割をしっかり果たした結果だと思う」と胸を張った。

 

 劣勢にも慌てない、動じない王者の矜持が垣間見えた。「こういうゲームを待っていた」と坂手は言う。

「サンゴリアスさんはすごく気合いも入っていて、いいアタック、いいディフェンスをしていました。ただ“どこかで足が止まる”とハーフタイムで話していました。こういうゲームを待っていた。こういうゲームが自分たちには必要。自分たちがやるべきことをやり続ける。それを楽しみたい」

 

 この日、プレーヤー・オブ・ザ・マッチ(POM)に選出された松田も、「厳しい展開が嫌ということはない」と口にする。

「選手としても、クロスゲームでどう勝っていくのかというのが楽しい。こういう試合をどんどん経験していくことが次へのステップアップにつながると思っています。この試合を乗り越えられたのは、チームとしてもレベルアップしているということ」

 これで埼玉WKの開幕からの連勝は11に伸びた。残り5節。しなやかで、したたかな王者を止めるチームは現れるのか。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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