クローザー永川勝浩の1軍登録抹消(12日に再登録)とともに、広島カープのクライマックス・シリーズ出場の可能性も消えてしまったように感じられる。
 7月1日の巨人戦、永川は6−4と2点リードの9回表、クローザーとしてマウンドに上がった。ところが、味方のエラーでリズムを崩し、一挙に5点も奪われてしまう。“ガラスの抑え”を象徴するようなシーンだった。

 5月23日のオリックス戦では9回に3つの四球(1敬遠を除く)を連発し、2点のリードをフイにした。1イニングに3つも四球を与えるクローザーなんて聞いたことがない。監督のマーティ・ブラウンはこの時点で永川の締めくくり役には見切りを付けるべきだったのだ。
 かつて横浜時代の権藤博監督はクローザーの佐々木主浩に「失敗は(1シーズン)2回までだ」と厳命した。「僕が3回も失敗すると思っているんですかね」と佐々木はご機嫌斜めだったが、逆に言えばクローザーとはかくも責任の重い仕事なのである。

 昨季、永川は5勝6敗27セーブ、防御率1.66という好成績を残し、クローザーの地位を奪還した。
「防御率を見れば彼の安定感がわかる」と言った評論家がいたが、クローザーの安定感は防御率でははかれない。
 逆に私は素晴らしい防御率を残していながら、なぜ6敗もしているのか、そこが気になった。ここぞという場面で踏ん張れ切れないのだ。

 防御率だけを見ればカープ2連覇時のクローザー、江夏豊のそれは2.66(79年)、2.62(80年)と凡庸である。しかし、大一番で江夏が試合を壊したゲームは、ほとんど記憶にない。
 故山際淳司のノンフィクションのテーマにもなった「江夏の21球」も、元はといえば絶体絶命のピンチを招く原因をつくったのは他ならぬ江夏自身である。しかしランナーを背負ってから江夏は本領を発揮する。これがクローザーの条件である。

 永川が江夏にも佐々木にもなれないのはなぜか。
 端的に言えば、それはアウトローでストライクが取れないからである。
 江夏も佐々木もランナーがいない場合ではツーナッシングに追い込むのが実に早かった。バッター・イン・ザ・ホールに追い込んでおけば、あとはボール球でも振ってくれる。少ない球数で、彼らはいとも簡単にゲームを締めくくっていた。

 150キロのストレートや落差の大きいフォークに磨きをかける前に、まず永川はアウトローで確実にストライクを取ることを覚えるべきだ。たった10日間の3軍調整でそれが改善されたとは思えない。
 フォームについて客観的で有効なアドバイスのできるコーチはいないのか。制球力を向上させるためのフォーム改造は古くて新しい難しいテーマである。
退路を断ってこれを断行しない限り、永川に明日はない。

<この原稿は07年7月29日号『サンデー毎日』に掲載されています>

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