球団創設初年度の勝率は打率程度の2割8分1厘。2年目は3割5分6厘。「パ・リーグのお荷物」と呼ばれていた楽天が今季は大健闘だ。7月1日現在、31勝39敗2分、勝率4割4分3厘で4位西武から3.5ゲーム差の5位。クライマックスシリーズ(3位以内)出場も夢ではない。

 チームを変えたのは72歳の野村克也監督だ。監督就任2年目で徐々にではあるが、“野村イズム”が浸透しつつある。
 楽天での「野村学校」の優等生といえば38歳の山崎武司だろう。目下、2冠王。ベンチでは野村の言葉に何くわぬ顔で聞き耳を立てている。

「監督のいうことは、だいたい当たるんです。たとえば捕手のリード。次はここやろ、このボールやろ、と。ちゃんと選手を観察しているんですね。
 監督と会って初めて“考える野球”の意味がわかりました。“そのプレーはどうなんだ?”と聞かれたとき、パンパンと言い返せばそれでいい。要するにそのプレーに根拠があるかどうか。漠然とプレーしているとなにも言い返せない。こういう選手は使ってもらえない」

 同じ話はヤクルト時代の小早川毅彦(現広島打撃コーチ)からも聞いたことがある。広島を自由契約になった小早川は移籍先のヤクルトでレギュラーの座をつかもうと必死だった。ベンチでは常に野村のそばに座り、野村の“ボヤキ”に耳を傾けていた。

「驚きました。監督が“このバッターはここを狙っているぞ”と話すと、ほとんどそのとおりになる。ヤマカンではなく、監督は常に根拠を追究するんです。考えることの大切さを教わりました」

 山崎にしろ小早川にしろ“野村信者”にはなぜか前の球団を解雇された、いわば“窓際族”が多い。人間は厳しい立場に立たされて初めて危機意識が芽生え、知識の吸収に貪欲になるということなのか。年寄りの“ボヤキ”を侮ってはいけない。

<この原稿は07年7月14日号『週刊ダイヤモンド』に掲載されています>

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