現代フットボールにおいてボランチの得点能力はマストだ。
日本代表の欧州組に目を向けても、スポルティングの守田英正が5月1日(日本時間)のファマリカン戦で右からの折り返しをトラップしてから左足で決めて今季6ゴールを挙げている。チャンスとなるエリアに入っていける力は彼の大きなストロングポイントでもある。
さてJリーグである。今季も横浜F・マリノスをキャプテンとしてけん引する28歳の喜田拓也はボランチとして完成度を増してきている印象を受ける。
安心感と信頼感。
チームが危ないときには“鬼ダッシュ”でスペースを埋め、苦しいときにはネジを巻くもうひと頑張りができる。バランスを取りながらも勝負どころではギアを上げてチームの“温度”を高めていけるのも喜田ならではだ。
「僕はスペシャルな選手じゃない。だからこそ、当たり前のことを当たり前にやらなきゃいけないし、頑張らないといけない。それが得意なことだし、自分の役割だと思っています。みんなが得意なことを頑張ってやってもらうための、パワーを出していく。それがサッカーの面白さじゃないですか」
これが喜田の信条である。
テクニックも向上している。だが足りない要素として得点能力がずっと指摘されてきた。シュートチャンスがないわけではない。打てどもゴールに結びつかない。気がつけば2018年5月5日の名古屋グランパス戦(アウェー)でゴールを挙げて以来、5年近く遠ざかっていることになる。
ようやくそのときは訪れた。
4月29日、またしてもグランパスとの一戦。前半は終始グランパスにペースを握られるなかで先制点を許し、F・マリノスは後半から反撃を開始する。後半27分だった。左サイドのゴールラインぎりぎりでボールを拾ったエウベルからパスを呼び込み、左足でニアに流し込んだ。ピッチ上ではいつも冷静なキャプテンも、珍しく雄叫びを挙げながらガッツポーズを繰り広げた。プロ11年目にしてホーム、日産スタジアムでの初ゴール。感情が爆発するのも無理はない。
ただ自分都合で感情を出す人ではない。上位にいるグランパスに負ければ、引き離されてしまっていた。自分たちの時間帯にしっかりと追いつけたことに意義があった。追加点こそ奪えなかったものの、攻撃姿勢を貫いて同点でゲームを終えたことは次につながる結果となった。
F・マリノスは前線の3トップとトップ下のみならず“偽サイドバック”の2人も積極的にゴールに絡んでくる。優勝した昨シーズンは断トツの得点力を誇ったものの、今季は第10節終了時点でゴール数はヴィッセル神戸、北海道コンサドーレ札幌を下回る。4月22日、アウェーのヴィッセル戦でボランチの相棒、渡辺皓太がゴールを挙げたように、リーグ2連覇のためには藤田譲瑠チマ、山根陸を含めたボランチの得点力がカギを握ってくるとも考えられる。
自分のことよりもチームを優先する生粋のキャプテンシー。ゴールと縁遠かったのはポジションだけが理由だけではなく、エゴがないという側面もあるに違いない。
彼は以前、こんなことを語っていた。
「チームは誰か一人のものじゃない。もちろん苦しいときに先頭に立つ覚悟はあるし、そんな生半可な気持ちでキャプテンを受けているわけではありません。ただみんなに協力してもらっていけば、チームがもっと大きいものになるんじゃないかって。みんなの姿勢があって初めていい結果に結びつくと思うんです。今、クラブの顔になる選手、誰ですか? って聞いたら、みんな違う名前を出すかもしれない。それって誰かに頼っているチームじゃなくみんなでチームのために頑張っているからこそだと思うんです」
ゴールでチームを助けていくという発想でいい。
約5年ぶりのゴールは、喜田拓也を新しいステージに導くはずだ。
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